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半透明なシナプスの恋 作者:藤山素心
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第19話 町工場への賞賛


 イマジナリー・フレンドの初期ロットが完成して1ヶ月が過ぎた頃。

 慎之介が開発部に息を切らせて駆け込んできた。

「修ちゃん! 修ちゃんは、いるかい!」

「会長」

 真っ先に反応したのは哲子だった。

「おぅ、哲子さん。哲子さんも聞いてくれ。来たぞ、イマ・フレの注文が来たぞ!」

「え! ほんとですか!」

 哲子の表情がぱっと赤らんだ。
 同じ部屋で日を追うごとに澱んでいく修一に、哲子はどうしようもない不安を感じていたのだった。

「修っぴ、売れたってよ! やったね私らのイマジナリー・フレンド!」

 しかし、修一はモニターから振り向きもしない。

「おいおい、修ちゃんや。嬉しくないのか? 修ちゃんの作った、あれが売れたんじゃよ?」

「へぇ」

「修ちゃんがプロモーションビデオに出てくれたら、あっという間じゃったぞ」

 哲子が眉間にしわを寄せる。

「え? 私のどうしたんですか?」
「ん? あぁ、あれは別に使っとるよ」
「ホントに? 私があのテヘペロに何テイク撮ったと思ってんですか」
「いや、うん。アレは良かったぞ哲子さん」

「会長、ここにいたんですか! 大変ですよ!」

 開発部のドアが激しい勢いで開き、飛び込んできたのは金型の井上だった。

「どうした、イノさん」

「パンク、パンクですよ! 突然イマジナリー・フレンドの注文が殺到して、事務だけじゃ問い合わせに答えられないんですよ!」

「しかし、さっき事務室で最初の注文にバンザイしたばかりで」

「ともかく手の空いてる人間で、イマ・フレのことをよく知ってる奴が総出で対応しないと。会長もお手伝い願えませんか?」

「よし、すぐ行く」

 ぼんやりとそんな会話を他人事のように聞いていた。

「おい、千葉ァ! お前も手伝えよ! あのイケメン開発担当から話を直接聞きたいって電話が多くて困ってんだよ!」

 修一は見向きもしない。

「イノさん、まずはわしらで電話応対を急ごう」

 慎之介と井上は駆け足で出て行き、後には哲子がぽつんと残った。

「修っぴ……みんなのとこ、行かない?」

「行っといでよ、哲子さん」

 哲子は黙り込んで、すぐには出て行こうとしない。

「修っぴがまた廃人になるからジュース買ってくるわ」

 その言葉の意味に気づき、修一はようやくモニターから振り向いた。

「さんきゅー」

 だがそれだけ告げると、修一は再びモニターの向こう側に魂を吸われていった。


▽ ▽ ▽ 


 慎之介が事務室に駆けつけると、ありったけの電話4台に人が張り付いていた。
 絵里子と美紀、乾と田所だ。
 1つの電話が終われば、すぐまた別の問い合わせが鳴る。
 4人は会話中のほとんどを、頭を下げて謝っている状態だった。

「初期ロットの20台が、あっという間に売れたんです」

 電話を切った工場長の乾は、興奮冷めやらぬ顔で慎之介に説明した。

 呆然とその光景を見ながら慎之介は乾に尋ねた。

「わからん。健さん、なにがあったんじゃ? こんな……そんな急に」
「ネットの動画サイトですよ」
「動画サイト?」

「ええ。みんなが自由に動画を投稿するサイトに、千葉に出てもらった【イマ・フレ】のプロモーション動画が流れたんです」

 慎之介にその意味は理解できない。

「マスコミが取り上げてくれたのかい?」

「いえ、個人です。このタイトル『天才イケメンはホログラフィの犬を飼う』ってヤツです」

 コメントが弾幕のように流れる動画を見せられても、やはり慎之介には理解できない。

「つまり、大人気ってことじゃな?」

「そうですよ! 会長、コイツは大当たりです!」

「そうか、大当たりか」

 慎之介にようやく満面の笑みが浮かんだ。

「会長! 量産体制を採りましょう! 工場一丸となって、コイツで勝負しましょう!」

 少しずつ実感のわいてきた慎之介は窓の外を見た。
 そこには自分が大きくした、心血注いだ工場が見える。
 働くしかなかった自分の選択肢に今、新しい選択肢が加わった。

 夢のある物作り――
 町工場の存在が今、世間に認められたのだ。

 慎之介は乾の肩を力強く叩いた。

「まだまだ、わしもこれからじゃな!」

「そうですよ、会長! タカギ製作所は、これからですよ!」

 ホームページのアクセスカウンターは回り続け、電話は鳴り続けた。


 これこそが町工場に対する賞賛の証だった。

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