「先生、私告白したいことがあるんです。聞いていただけますでしょうか?」
一ノ瀬桜、一世一代の告白しに参りました。どうして早く言わなかったのか悔やまれます。私は男性恐怖症だと言うことを伝えていなかったばかりに、こんなクラスに編入させられてしまったのですから。――本当はただ自分が間抜けにも共学になったということを知らなかったためにそうなってしまったということぐらいわかっています。自己分析は完璧にできているんです。でも、でも……。
悟ってしまいました。
今日、速星楓にいじめられて、私はもう無理なんだと。最初からわかっていたでしょう、本当に馬鹿でアホでどうしようもない子です、私……。
男性恐怖症だということを伝えれば、きっと相部屋だってなくなるでしょうし、クラスだってあわよくば変えてくれると信じたいんです。
いくら成績順にクラスが編成されているとはいっても、男性恐怖症の私をわざわざ男だらけのクラスに入れるほど、鬼畜じゃないでしょう。
「どうしたの? 一ノ瀬さん。そんなに改まって……」
先生は私の言葉と勢いに気圧されて、少し引いていました。でもそんなの関係ありません、私は猪のように突き進むのみです。
「あの、相部屋のことなんですけどね――」
「ああそうそう。もう部屋に荷物は運んでもらってあるから、心配しなくていいわよ。あと、貴女に話すの忘れてたんだけどね。この学校、絶対どこかの部活に入らなきゃいけないのよ。あとで鬼塚さんに案内させるから、部活決ったら教えてくれる? あ、私今から職員会議なのよ。話はまた明日聞くから、そのときお願い。あ、おい有沢。連れて行け」
先生、そりゃあんまりじゃありませんか。
私の話……一瞬で終わりますから聞いてくださいという間も先生はあたえてくれませんでした。それどころか、どこからともなく現れた有沢くんによって、囚人と化した一ノ瀬桜は強制的に寮へ連行されたのでした……。
◆
「寮長、今度新しく二年に編入生が入ってくるということですけど、どうしますか?」
「どうって、いつもみたいに歓迎会やるに決ってるでしょ? ほら、番長もそう思ってるわよ。顔に書いてあるじゃない」
「ちょっとまて、そんなこと一言も……。おい、もう少し人の運び方考えたらどうだ」
意識朦朧となっていた私ですが、どこかの女の子の声で覚醒……。
私は有沢くんに石畳の床の上を引きずられ、顔面とか体中とかそこらじゅうに傷つくりまくって痣だらけになりながらも何とか寮にたどり着きました。ちょっと気遣ってくれる番長様、アナタは天使ですね、違うと思いますけど。
ここは、一体どこ?
私の目の前にはとても寮とは思えない建物が立ちはだかっていました。
見上げた先は白い外壁、テラス付きの部屋。全部で三階建てのようです。各階に部屋は、ざっと見ただけで七部屋くらい。特Aクラスの場合、一クラス15人の小編成。多分二人部屋ずつ。あれ……。
私はふと疑問を感じましたが、心はすぐに違う方へ移りました。
最上階にはバルコニーがあり、そこだけ窓が広く、きっと見晴らしが良いのだろうなーと思いつつ。
寮には庭もついていました。
綺麗に刈られ、よく手入れがされているなと素直に感じるグリーンの芝生。植えられているのは薔薇の花だけ。ふんわり香る、甘い匂い。
まるでカフェテラスのようにところどころにパラソルと白いテーブルが十セットずつ。
そこには、美味しそうなケーキやらマフィンやら、クッキー、タルトがズラーっと置かれています。ティーセットが各テーブルに置かれ、これから何かのパーティーか、お茶会でも始まるような感じです。
なんでしょう、このVIPな扱い。
本当に学生生活ですかコレ。
これは寮というより……アパート。いやマンション。……ホテル。――何城。
有沢くんが不思議そうに番長に尋ねています。
「……何かいけなかったか?」
いけないもクソもありません。あなたの目は節穴ですか。それとも私への単なる嫌がらせですか。
どっちにしても腹立たしいですけど。
寮長、と呼ばれた女性が私を見るなり目を剥き、悲鳴を上げました。
「ちょっと、その子傷だらけじゃない! 何やってんのよ!」
「寮長、こいつに何を言ってもきっと無駄です」
意外な光景に、言葉がありません。私はずっと寮は男ばっかりの地獄監獄牢獄以外の何者でもないと思っていましたが、女性、いるじゃないですか。
ツインテールに纏められた茶色の長い髪、私を不審気に見つめる目は吊り気味。それを縁取る睫毛は長く、瞬きするたびバチバチッという音が聞こえます。
「――……ていうか、何かの罰ゲーム? なんでサダコの恰好させられてるの? かっわいそーじゃない。傷が余計恐怖を引き立てているわよ」
有沢くんと寮長が暫し――30秒ほど無言で見つめあいました。
「――……そうだったのか」
今アナタは一体何に納得されたのですか、有沢くん。大きく見開かれた目が心なしか驚愕の事実を知りましたって感を醸し出してます。まさかとは思いますが、罰ゲームでサダコの恰好を私がしているという今の言葉に納得……したのでしょうか。
「…………」
有沢くんは無言で私を見つめてきました。
…………私はお腹の底が冷えるような思いでした。もう完全に蛇に睨まれた蛙でした。
怖い。
ただそれしか考えられません。そんなに見つめないで下さい、目の玉抉りましょうか。
……これから私は、この未知に満ち溢れた人と道を共にしなければなりません――。目の玉抉ってもいいですが、それはちょっとホラーになってしまうのでやめます。
「頑張れ」
真顔で意味深な――別に意味深でもない気もしますが――事を言われ、私は正直驚きました。
「え」
それって、私を元気付けてくれているんですか。こんな私を。有沢くんのことが怖くて怖くて、震えそうな私を……。
……なーんて、絶対違いますねコレ。だって絶対、「(罰ゲーム辛いけど)頑張れ」の略だと私は思うのです。読心術は心得てませんが、勘で。
「悩みぐらいは聞いてやる」
ほら。
脳内でもう一人の私が予想通りの結果に、それ見たことか、といって高笑いしていました。
「……やっぱり」
寮長が、あーあ、とため息をつきました。
「相変わらずね、二年特A。とりあえず、休むことも必要ね。仮にも医者の息子なんだから、傷の手当てくらいしてあげなさいよ? 落ち着いたらまた下に来てよ。その頃にはもう準備もできてるだろうしね」
◆ ◆
寮の庭には大きな木が植えられていた。そこは時に丁度良い日陰になり、日差しが強い時は、よくそこで休む生徒も多い。今日も二人の生徒が芝生の上で休んでいるようだ。
「一ノ瀬桜……か。俺のこと完全に忘れてる?」
そこに座り、独白むなしく呟くのは金髪の少年だった。黒ブチの眼鏡をはずし、汚れたレンズを丁寧にふき取っている。
「忘れられてたことは別にショックじゃいけど……。何演技してるんだろう。ちょっと気に入らないような……」
彼の腕にすがり付いていた女子生徒が甘ったるい口調で囁く。
「なーに? 楓の知り合いなの? 演技って、もしかしてぶりっ子ぶってるとか?」
「そうなるのかな。多分……。向こうが覚えてないんじゃ、『知り合い』とはいえないと思うけど」
眼鏡をかけなおし、視界がはっきりしたところで彼は立ち上がった。
「ふーん……?」
女子生徒は桃色の髪をかきあげ、つまらなそうに口を尖らせる。
「桃がさ、もしさ……」
――ちょっとその子に痛い目見せてあげるって言ったら?――
「何? 何か今言った?」
風の音にかき消された女子生徒の言葉を、彼はもう一度聞きなおしたが、彼女は満面の笑みを浮かべただけだった。
「なんでもないよ」
彼は聞こえていた。彼女の言葉が。
彼は心の中で呟く。
ああ、それは少し楽しそうだな……と。
黒ッ!! 速星楓、腹黒!!
と、書きながら思ってしまったこの楓……。桃ウざす。
小説家になろう 勝手にランキング←登録してみました。応援していただけると嬉しいです。
拍手を送る
※12/25 拍手お礼小話更新
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。