ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
倒れた桜を運んだのはこの人でした。
1章 同室者
02
 ああ、私って、一体どこまでついてないんでしょう。むしろ色んなものが憑いてるんでしょうか。

 目を覚ましたら、ああこれは夢だったのね、なんて展開……あったらいいですよね。
「うー……ん?」
私がゆっくり寝返りを打ったその先には、整った顔がありました。長い睫毛、アッシュの黒髪、切れ長の目が私を無機質に映し出しています。

「――!!」
 私は声に鳴らない悲鳴(?)を上げ、後退りましたが、何故かここはベッド上。そのままベッドから尻餅をついて落っこちました。あまりの痛さに涙目になりながら、ていうか別の意味でも涙目になりそうでしたが、私は彼を見上げました。彼もベッドの上から私を見下ろしています。

「………」
「…………?」 
 私は何か言いたげな彼の言葉を待ちましたが、50秒たっても彼は黙ったままです。
 思わず前につんのめる私。
 ッなんで何も言わないんですか有沢くん。そこは何か言ってもらわないと私ただの馬鹿じゃないですか。
 私は彼と少しでも距離をとるため、どこから見ても怪しいとしか思えない素早さで壁にへばりつきました。あまりの勢いにメガネがずりおってしまいました。視界が久々にクリアになる。お父さんから譲り受けたメガネが外れてしまいました。
 防御率が大幅にダウンです。
 そこには不審者を発見した時と同じような顔の有沢くんが突っ立っていて、ただ淡々と私を見下ろしています。ていうか、私を見下ろすってどんだけ背の高い人なんでしょうかこの人。私、横にも縦にも大きいことだけは唯一自負できる点なのですが、何か負けた気分。
 メガネが無いとやっぱり駄目です、余計顔が赤くなりそうです。
 
 ああ、カーテンが邪魔です。壁際に立って初めて全体を見渡せましたが、どうやらここは保健室のようです。
 消毒の香り、カーテンで仕切られた三つのベッド。私は窓際の一番端のベッドに寝ていたようで、そこのシーツがぐしゃぐしゃに乱れています。

 先生が座っているはずと思われる椅子には誰もいません。
 先生、カムバック!! 貴方がここにいなきゃ意味ないですよ。

 私はメガネを中指でずりあげ、もう一度装備しなおしました。
「あ、あのッ!! ごめんなさい怒ってるんですか!?」
 平静を装うと思って声をかけたつもりが、何故か裏返って奇妙に甲高くなってしまいました。さぞや有沢くんは不審に思っているでしょう……。
「……何で?」

 あ、初めて声を聞きました。悪寒が(ぞくぞく)するような(いい)声です。

「だってあの、相部屋になっちゃって。……私が怒ってるんですけどね」
 ……何言ってるんでしょうこの口は。ああ、ほら有沢君も意味不明って顔でぽっかーんとしてるし。
 疑問符が沢山頭の上に浮かんでいるのが見えそうです。
 有沢君は何故か気だるげにため息をつきました。
「……(仕方ないだろ、仁美ちゃんが決めたことなんだし。部屋空いてるの二番の俺ぐらいだし。あいつは一番だから絶対一人部屋だし。――よりによって、特Aに女子が入ってくるからこうなるんだろ。AクラスとかBクラスなら全寮制なんてなかったのに)」
「あのー?」
 また黙ってしまった有沢くんにおずおずと声をかけると、有沢くんはまた「何だ?」といってきました。

 いや、貴方が『何だ』ですから……。

「答えてもらえないんですか?」
「今心の中で答えた」
「声に出してわかるようにお願いします!!」
「めんどくさい」

 それじゃ、貴方はいつもどうやってコミュニケーション取ってるのか、とツッコミたくなるところですが、そこは抑えて何とか頑張って笑ってみせる私。駄目です。頬の筋肉が痙攣します。やっぱり男の子の前で自然に笑うのは難しいです。

 有沢くんはぎょっとした顔で私を見ています。

 前の学校でもそうでしたが、私が微笑みを無理やり浮かべると、洒落じゃなくホラーになるとのこと。怖すぎると評判でした。ついたあだ名がサダコです。

 私は自分の中で何かが切れるのを我慢していました。いけませんいけません。相手は男の方ですよ。頑張れ、桜。切れたら負けなんです。

「でも、元女子校なのに不思議なクラスですね、男ばっかりなんて」
「成績順だから」
「……そうですよねぇ」
 あはははは。返す言葉も見つからず、もう笑うしかありません。
「有沢くんはどうして女子校に入ろうと思ったんですか?」
 貴方達男性さえ、こんな元女子校に入らなかったら私は今頃幸せな毎日を送っていたはずなんです、とはさすがに言いませんでした。
 でも疑問だったんですよね、さっきから。
「それは――」
「それは?」
 私は有沢くんの次の言葉を待ちました。
「…………」
「…………?」
「……………」

 えっと。3分経ちました。
 あーもうちくしょう、何で何も言わないんですかコノヤロー!

 有沢くん、また心の中の声を聞けですか? 私は残念ながら読心術は心得ておりません。

 これ以上の会話はなんていうか、無駄。また私は引きつった笑いを浮かべました。サダコ笑いです。
 有沢くんがやっと口を開きました。
「おい、行かなくていいのか?」
 え? 行くって一体どこへ?
 ていうか、あの私の質問の行方は一体どこに?
「授業」
「私にあの混沌の中に戻れと!?」
 一気に現実味を帯びた話に変わりました。何でですか、有沢くん。話とび過ぎでしょう。
 私が脳内で暗黒世界に引きずられていく中
「は? 混沌……?」
 と、有沢くんがいきなり前から豆鉄砲を打たれたような顔、なんとも形容しがたい顔をしていましたが、私の目にそんなものは写っていませんでした。知るかそんなの。

 私はこれからの戦い(?)について考えていたのです。

 一ノ瀬桜、初期装備だけでむしろスッピンでなんの装備もせず、最初からラスボスに挑戦するような無謀な行為はしたくありません。私の現在の装備はメガネなんです、あと努力の結晶、この体格。私の今のレベルは1以下なんです。何のレベルかといいますと、
男の方の耐性レベルです……。

「……」
有沢くんは何故か震えていました。全身です。肩が小刻みに揺れて、大丈夫でしょうか。
「全身痙攣ですか?」
「アンタ、最高に面白いな」
「今のどこに面白いところがあったんですか?」
 有沢くんは目に涙を浮かべ、お腹を抱えていました。もしかして、お腹が痛いのでしょうか。
「止痢剤、飲みます?」
「し、しり剤!? 下痢じゃないから! 腹痛いわ……」
 はらいたい? 何を? 私に? いやいやいや。何言ってるんでしょうこの人。
 有沢くんが何を言っているのか私にはちんぷんかんぷんです。

「よろしく、一ノ瀬」
「え? ええぇ???」
 私は有沢くんに笑顔で肩を叩かれました。私が卒倒したのは言うまでもありません。

cont_access.php?citi_cont_id=383007143&size=135
小説家になろう 勝手にランキング←登録してみました。応援していただけると嬉しいです。
拍手を送る
※12/25 拍手お礼小話更新


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。