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1章 同室者
01 
 私は、普通科共学公立高校から、私立で進学率が高い華泉学園に編入しました。
 この学校、クラスは成績順に分かれており、文武両道を基本理念とした女子校なのです。

 そう考えると、今までの地獄のような毎日が一気に天国に早変わりです。私は今日から担任となる古森仁美先生に連れられてるんるん気分で階段を上っていきます。

 もう最高に浮かれていて、私の脳内でもう一人の私がくるくる踊りだしているくらい。

 どうしたものか、教室のドアの前に立った瞬間絶句してしまいました。
 
 りんごのように真赤になっている私の顔を見て、先生が呆れたように笑います。
「そんなに緊張しなくてもいいのよ、一ノ瀬さん」
「は、はぁ……」
 そんなに見るからに緊張して見えるんでしょうか。
 
 確かに冷静になって自分の体を見下ろしてみると、膝笑ってるし、拳を握り締めているし、気付いたら自分の唇をかみ締めて、赤いどころか蒼白な顔になっています。
 これはもう、緊張を通り越していました。恐怖です。
 だって、私はドアの前に立っただけでわかってしまいました。この向こうに何がいるのかを。薄いドア一枚隔てた向こう側の独特な熱気を敏感に感じてしまったから。

 なんで……このクラス。ここは女子校ではなかったの……。


 私は茫然自失状態に陥ってしまいました。自分では全く無意識だったのですが、体が勝手に回れ右して来た道をそのまま戻っていこうとしました。

「ちょっとちょっと、何やってるのよ一ノ瀬さん」
先生が慌てて私を引きずります。私は必死に抵抗しました。しばらく教室のドアのところで拮抗が続きました。
「先生、ちょっと質問していいですか?」
私達はとりあえずお互いはなれました。向かい合った私と先生はとりあえず冷静さを取り戻します。
「この学校って、女子校ですよね?」
「今更何言ってるのよ。ここは2,3年前から共学になったのよ。あ、ちなみにうちの学年、他の学年より男子多いの」
先生は笑顔で答えてくれました。

私も笑顔でその場に凍りつきました。


脳内では、もう一人の私が頭を抱えて膝をついています。もう絶望状態です。さっきまで踊っていたのに、今はもう暗黒世界にトリップしていきました。

後退った私の腕を先生はしっかり掴みました。勝ち誇ったような笑顔です。
「あらあら、逃がさないわよ?」
「先生、私この学校に入るのやっぱやめます、今すぐ退学します。ありがとうございました、ということなので手を離してくれませんか」
「駄目よ!! 貴方特Aなのよ!? みんな入りたくても入れない特Aなのよ!? 某大進学率45%なんだから、貴方は金の卵なのッ!!」
「金一封だけはもらって退学しますから」
 特待生制度で授業料全額免除になるってきいたから決めたこの学校。進学率はいいし、首席で卒業できたらあわよくば金一封が出る。……と学校案内には書いてありました。そして何より女子校。一番私が惹かれたのがそこなのに、何でですか。詐欺ですよね? 
「私は迷える子羊でした。なんか間違えて本当に迷ってました。生きててすみませんでした。」
 本当に最悪です。


 結局、私のささやかな抵抗もむなしく、先生に引きずられて私は教室に入りました。

「なんと、このクラスに女子です!」
 先生が私の背中をばしばしと叩きます。
「期待してたでしょ? 転校生は女の子だって」

 先生一人で笑っていますが、他の生徒は静寂を守っています。むしろこのしらけた空気、私にとっては好都合でした。この反応がせめてもの救いです。
 皆さん、きっと心中こう思っているでしょう。
 何か小太りな牛乳瓶の底みたいなレンズのめがねかけた貞子チックな女が入ってきた。しかもやけにでかくて、推定身長170cm。
 見るからに可愛くない……と。
 そんなほめ言葉が彼らから出てきたら私は飛び上がって喜んでしまいます。……いえ、勘違いしないで下さい。私、マゾというわけではありませんから。それは私だって一応女の子ですから、可愛いって言われるほうが嬉しいですけど……。
 だめだめ、やっぱり無理です。
 ただ、今の外見には自信があります。
 嫌われる自信が。

 だって、前の学校では、暗い人、怖い人、ホラーっぽい人第一位に輝いてしまい、三冠達成したせいでますます女子から敬遠されがちな生活を送っていましたから。
 あーあ、こんな私って……。
 本当は女の子が大好きなのに女の子から嫌われてしまい、友達ができないことをずっと悩んでいました。おとうとがいない間に勝手に女子校への転入を決定し、今度こそ可愛い女の子のお友達ゲットです!


「先生、誰と一緒になるんですか?」
「うーん、そうねえ……」
私には何のことを言っているのかさっぱりでした。誰と一緒?
 私の怪訝な顔を見て、先生が出席簿で顔を隠しました。それ、どういう意味なんですか。目で訴えかけても先生はもう私の方をみませんでした。
「私が適当に決めます。空いてる部屋に。じゃ一ノ瀬さん、好きな席に座っていいわよ」
「え、ええぇ!?」 
 そんないきなり言われてもまだ心の準備ができていません。好きな席って言われても、どこに座っても私にとっては針の筵にずっといろと宣言されたようなものです。
 
 私が顔面蒼白で、きょどきょどしてその場に突っ立っていると、後ろの教室のドアが勢いよく開かれました。

 入ってきたのは、思わず釘付けになってしまうような小柄で可愛らしい人でした。私より多分小さいです。
 黒のベストに白いシャツ。グレーの制服をだぼっと着ていて、見るからに華奢だなとわかります。顔を縁取る髪は長く、後ろは短めに切られています。茶色の髪は染めているのか地毛なのか、女の私よりきっと艶があると思います。二重瞼の大きな目。くりくりしていて、子リスのようでした。
 こんな可愛らしい人、女の子でもそうはいません。私は心臓を打ち抜かれました。

 私が見とれていたら、クラスの男子全員立ち上がって私と彼を隔てました。

 な、何これ。
「お早うございます、ゆかり番長!!!!」
 えぇー!! 全員が一斉に紫番長に頭を下げました。なんだか凄く滑稽なんですが。
「誰が番長だ!!」
 番長……女子校に、いえいえ、ここはもう女子校じゃないですけど、でも、……番長!? しかも堂々と遅刻してきました。先生に悪びれる様子も全くありません。 
「鬼塚くん、また遅刻ね。もう、そこの後ろの奴二人もまた? 仕方ないわね」
私の視界には可愛い番長さんの方しか写りませんでしたが、あと他に二人もいたようです。

有沢ありさわ速星はやほし前に出なさい」
 有沢くんと呼ばれた人は、私より背が高く、アッシュっぽい黒髪でした。切れ長の黒い目が先生の隣にいた私を怪訝そうに捉えていました。私は膝が笑いそうになるのを必死に堪えていました。緊張してしまいます。間近で見ると、睫毛も長くて色も白く、不健康そうでした。……じゃなくて、相当綺麗な顔をしていました。
 
「速星? 私の声が聞こえなかったのかしら?」
先生は腰に手をあて、後ろの壁に寄りかかっていた男の子の名前をもう一度呼びました。
「はいはい、そう怒らないで、仁美ちゃん」
「誰が仁美ちゃんよ、先生でしょ?」
 私はずっと恥ずかしくて緊張してうつむいていたのでわかりませんでしたが、ふと顔を上げた瞬間、開いた口がふさがらなくなってしまいました。

 ヤンキーがそこにいました。

 蜂蜜色の髪。黒ぶちのめがね。




やっぱり、この学校で生きるのは無理なのでは……。そう思っていたら、先生の口から更に追い討ちをかけるようなことを言われました。

「有沢、今日から一ノ瀬さんと相部屋で。確か一人部屋だったよね? それから、速星。一ノ瀬さんにとりあえず教科書みせてあげて」
「……」

ア イ べ ヤ?

 その言葉を聞いてまともに立っていられるほど神経は太くありません。



「先生、一ノ瀬さんが倒れました!!」
桜の困難は今からはじまりです。笑

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