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剣道部の山村さんに怪我を負わせてしまった桜は、剣道部の雑用係(?)に任命されることになった。桃耶の意地悪(?)で時間を無駄にしたけど、その後学校で有沢くんと二人になったが――
うろおぼえだけど前話はこんな感じでした。
2章 ピンクの悪魔
16
「有沢くんて……女装してるとき楽しそうですよね」
「…………」
「ていうか、あのワンピースを見てる時の有沢くんは、嬉しそうですよね」
 ――だから、少し有沢くんて一緒にいて面白いと思ってしまうのですよ。 
 
 乾燥機がぐるぐる回転を続ける間、私たちはやることもなくベンチに座ってまったりしていました。有沢くんにはタオルを頭からすっぽりかぶって、とりあえず私が直視できないようにしてもらってます。「そんなに汗臭いか……」と怪訝そうな顔をされましたが、そういう問題ではないんですよ、察してください。
 今ならば、何か聞けるかもしれない。――なぜかその時私はそう思ったのです。 

「わかるか?」
 予想外なことに、食いついてきましたね。私は思わず息を呑んでしまいました。
 満面の笑みとは、このことを言うのでしょう。まぶしくて、私にはとても直視できないけど、何か瞳とか輝いてます。今、有沢くんからはキラキラ光線が出ているんだと思います。
 
「えっ……。ああああああ、あのぉ。ていうかなんて言うか。意外とかわいいものが好きなのかなーって思ったりしたんですけど。だって黄色いくまのぬいぐるみとか、黒くて丸い耳のネズミのTシャツとか……持ってますよね」
 何で私がそんなことまで知ってるかって……そりゃ見たからですけど、別に変な意味じゃないですからね。言っておきますけど。
「ああ、可愛いだろ?」
「ええ、とっても」

 ――趣向がかわいいと言わざるをえない。
 ゆきみだいふくが大好きだったり、私以上にスイーツが好きだったり、ていうか私が買ってきた杏仁豆腐とか勝手に食べちゃうし。部屋に何もないのかと思いきや、サボテンの鉢植え買ってきて大事そうに育ててたり。ふかふかの白クマの抱き枕を抱きしめてふもふしてたり。あれは私のものなんですとも言いだせず、返してくれとも言いだせず。結局有沢くんの部屋に消えて行きましたが。

 見た目はクールそうなのに。

「……やっぱり」
「へ?」
 何かぼそっと呟いたようですが、私にはさっぱり聞こえませんでした。
 突然、輝きが収まり、沈んだ声が響きました。タオルに半分かくれた顔からは、表情がよく読み取れません。
 え、どうしよう。もしかして、私の発言が有沢くんを傷つけちゃったのかと思うと、胸がどきどきしてきて、すごく落ち着かなくなってきました。私、また変な言葉を口走っていたんでしょうか。もしかして心の声が聞こえて――。
「やっぱり、俺がかわいいものが好きだったらおかしいとか思うか?」
「な、何ですかいきなり……」
 まさか、私の考えを読んで……。忘れてましたが、有沢くんは空気を読める魔界の住人でした。見た目で人を判断するのは良くないとは思っていても、こいつクールそうなのにギャップがおかしいと思わずにはいられないのが人間というものでしょう。不可抗力です。

 正直なところ……有沢くんがかわいいものが好きだからってどうでもいいと思います。

「別にいいんじゃないですか。そんなの、個人の自由です」
「……変だと思わないのか。ドン引きしないのか?」
 え、何。ドン引きしてほしいんですか。変だと思われたくないんですか、どっちだよ。
「今更、ですよ?」
 今更、ドン引きしろとか、変だと思えとか……遅すぎると思うんですよね。女装を快諾してくれたり、キモいとはいえ、女と相部屋になることを了承したり、ドン引きする要因なんていくらでもごろごろ転がってます。でも別にドン引きなんてしてないし、有沢くんは有沢くんでいいと思うし……。
 そういうことを気にする有沢くんて、なんかすごく可笑しくて、思わず笑ってしまいます。
「野良猫を撫でようとして、指噛まれてましたよね?」
「……見てたのか」
「ええ、笑わせてもらいました」
「…………そういう一ノ瀬はこの前子犬を撫でようとして牙を剥かれてたな」
「いいんです……わんこに嫌われるのはいつものことですから……。どうせわんこも、私みたいなおどおどしたキモくて暗い女に身の危険を感じたんでしょう。正当防衛ならしかたないと自分に言い聞かせているので今更っ、大丈夫です」
 ええわかってます。こんな女を危険に感じない生物なんて、この世界にはきっと存在しないことくらい。未知の生命体はどこの世界でも恐れられるものなのです。
 あの犬はきっと、邪気眼で殺される、とでも思ったんでしょう。

「有沢くんはかわいいのストライクゾーンが広そうですよね」
「……そんなことは――」
 ない、それはないでしょう。絶対広いですよ。可愛いからって、普通楽しく女装はできません、普通を知らないからわからないですが。可愛いの感覚が私とは全然違うのかも知れませんけど。

「可愛い……といえば、ゆーさんはもうぎゅーってしたくなるくらい可愛いですよね」
「うん……あれは小動物的な可愛さだろう」
「…………!!」
 私は激しく首を縦に振りました。同志、同志がここにいる……。まさか有沢くんと頷きあえる日が来るなんて……。
「森の動物に例えるなら――」
「子リス、だな」
「ですよねっ。わかります!?」
「ああ……子リスが竹刀を持って歩いていると思えばすごく面白いと思うんだ。……後ろから持ち上げてみたいとは思わないか」

 それは、面白いというか、すごく可愛いと思うんですけど。

「ハァハァ……ゆーさんは何をしていても可愛いので許せます」
 無意識的に息が荒くなる私、キモすぎる。有沢くんが紫を後ろから持ち上げたりとかしてたら鼻血をふくかもしれません。かなりの身長差がありますからね。顔を赤らめて嬉し恥ずかしそうにしてる紫を妄想すると可愛いくて悶えられる。
「そうなるとやっぱり有沢くんて、可愛いタイプの女の子が好きなんですか?」
「…………」
「ゆーさんとか、……桃耶さんとか」
 私の感覚で行くと、よだれが出るくらい可愛いと思えるのが紫で、ぱっと見可愛いと思えるのが、桃耶さんです。有沢くんは……紫のことどう思っているのでしょう……。やっぱり、好きなんじゃないのでしょうか……。
 何だかんだ言いつつも、有沢くんは紫とよく一緒にいます。
 まんざらでもないんじゃないのかなって……。
 そう思った時、何か胸に引っかかるものがありました。
 急に動悸がしてきて、有沢くんの横にいるだけで落ち着かなくなってきて、私は意味もなく素早く立ち上がりました。
 自分でこの話題を振っといて何ですが、有沢くんにはできれば何も答えてほしくないな、その時なぜか私はそう思っていたのです。
 直立しているだけだとなんとなく落ち着かなくて、私はその場をぐるぐる回り始めました。次第に額と背中から、変な汗が出てきました。早く乾燥し終わってほしい、この場から一刻も早く立ち去りたい。
「…………とーや」
「桃耶さん?」
「……一ノ瀬は、あれを動物に例えると何だと思う?」
「うーん……野うさぎって感じですね」
 可愛いし、どこか憎めないし。落ち着きがないし。髪がピンクでファンキーだし。 
「……俺にはマングースにしか見えない」
「可愛いですね」
 はっと有沢くんが息を飲むのがわかりました。え、何。私そんなに驚くべき様な発言を今しましたか。すごく普通に……。
 だって可愛いじゃないですか、マングース。可愛いのにヘビを退治してくれるなんて。素敵すぎます。
「マングースは雑食なんだぞ、知ってるか?」
 はぁ、雑食。何でも食べられるよーってことですよね。
 ……有沢くんはムツゴロウさんですか。マングースの生態系とか、桃耶さんの話と何の関係が。
マングースとーやは、一ノ瀬が思ってるほど、かわいくて温厚な生き物じゃないってこと」
「――でも、桃耶さんはいいピーで……」 
 絶妙のタイミングで、乾燥機終了の音が鳴り響きました。
 いいぴーってなんだろう、いいぴーって。あああまた意味不明な言葉を発してしまった恥ずかしさで、顔面が暑い。
 赤面していることであろう私の顔を、有沢くんが無表情で見つめてきて、それがまた凄く恥ずかしくて、私どれだけ痛い子なんでしょう。ああもう、こんな自分嫌です。
「ち、ちがっ……いいひと……で」
 乾燥し終わった洗濯物を取り込み気づいたのは、腕まで赤くなっていたということです。恥ずかしい……。
「…………いい人、か」
 
 ◆
 
「ちょっといい?」
 帰ってくるなり、これです。
 背中から、這い上がってくるような冷気を感じて私は振り向くことができませんでした。でもわかります。これは何やら私にとってマイナスにしかならないようなことで私は呼ばれていますね、絶対。
 なかなか回らないく首をカタカタ回して振り向いてみると、山村さんが仁王立ちで腕組みをして私の背後に立っていました。
「あ……」
「どういうつもりかしらないけどさ……。ないよね。人に押し付けるなんて」
 何のことなのかさっぱりわかりません。押し付けた……って。でも山村さんがそういうならそうなんでしょうかね。
「すみません……」
「しかも何? 有沢くんまで巻き込んで……」
 洗濯物を抱える有沢くんと、手ぶらな私。私を見る目がより一層冷たくなりました。わー、どうしよう。余計怒らせてしまいました。
「ええっー、あ、あの……ごめんなさい。有沢くん」
 その時の有沢くんの顔。何で俺に謝るんだよ、といわんばかりでした。私にはわかります。
 人に迷惑かけてばかりですね、もうどうしようもないです。だからきっと、皆怒ってるんでしょうね。
 
 戻ったら、桃耶さんがまだ待っててくれて、私は胸がきゅんとしました。こんな駄目な私を待っててくれてたなんて……。優しい人ですよね。
 きけば一度は帰ったけれど、私のことが心配で戻ってきてくれたそうです。
 私って、そんなに頼りないでしょうかね。
「え、やだちょっとぉ。待ってよぉ」
「…………とーや、いい加減に」
「やだやだ、ちょっと口出ししないでよねぇ。女の子同士の話してくるから、ちょっと一ノ瀬ちゃん借りるね? 山村ちゃん」
 イエス以外の選択肢は許されないという雰囲気を感じ取ったのか、山村さんも有沢くんもそれ以上なにも言いませんでした。
 桃耶さんは嘘でしょおとか、何でとか、私の顔を見るなりぶつぶつ言いながら私の腕を引っ張って部室の外に出て行きました。

「桃耶さん? どうかしたんですか?」
「あのさぁ、何で有沢蘇芳が一緒なのかなぁー? 一ノ瀬ちゃーん。何であんなの一緒に連れてくるかなぁ? 皆手が出せなくて困っちゃうじゃない?」

 皆さん、手伝ってくれるつもりだったんでしょうか、だったら悪いことをしてしまいました。

「はぁ……。すみません。私も断ったんですけど、桃耶さんが手伝ってくれてるとか言ったら、有沢くんが勝手についてきたんです」
 桃耶さんは、自嘲するように形のよい唇を歪めました。
「何それぇ。ちくったってこと? 一ノ瀬ちゃんって、意外とやるんだねぇ。さっすが二面性持ってるだけあるわぁ」
 え、意外と、やる。何故かその言葉に鳥肌が立ってしまいました。
「意外とやるだなんて……そんなことないですよ。でも、ありがとうございます」
「えー何それ。ちょっとちょっと。今の返し何!? ちょーウケるんですけど。もしかして一ノ瀬ちゃんて天才!? すごーい、完璧にスルーしたしぃ」
「そ、そんな……私面白くなんて……」
「男が苦手ってのも嘘で演技とかだったら、最高じゃない? 一ノ瀬ちゃんて、本当に天才だよ! 最高に二面性使い分けてるって!」
「え……」
 どうして、どうして知っているんでしょうか。別に隠してるわけではないですけど、私が男が嫌いで苦手だって知ってるのは、今のところ有沢くんだけのはずなんですけど。手が汗ばんでます。ぎゅっと握った手のひらからは、汗が滴り落ちないのが不思議なくらい、汗をかいていました。
 ――固く結んだ拳が、震えました。
「……桃耶さんのほうが天才ですよ!」
「え??」
「私のこと、間違った見方で見てるかと思えば的を得たような発言をしたりして。人を翻弄することに関しては天才なんじゃないですか!? すごいです!!」
 桃耶さんは笑顔を貼り付けたままその場で固まってしばらく動きませんでした。
「…………はぁ? 何の皮肉なわけぇ? 本当に予想しない返しをしてくるよね、一ノ瀬ちゃんって」
「そうですか? あんまり言われたことないですけど……」
「うん、桃とここまで張りあえる人、あんまり見たことないもん」
 クスっと桃耶さんが笑い、つられて私も笑ってしまいました。
「何考えてるのか、ぜーんぜんわかんなくて、正直、桃怖いよぉ?」
「ええ、よく言われます。怖いって」
 満面の笑みを浮かべて桃耶さんが怖いというので、私も笑顔で答えてみました。
 桃耶さんは、口元に笑みを浮かべたまま、暗くなっていく空の下に走り去って行きました。どういうことなんでしょう。


 紫と有沢くんが私を探しにきてくれ、「とーやはマングース」という話題で何故か私たちは盛り上がりながら寮に帰っていきました。
最後に桜のターンでしたね。不意打ちに定評のある桜。
次回の更新予定は未定ですが、桃の先制攻撃から始まる気がします。はい。また桜の不意打ちが入るかもしれません。

評価感想下さった方、ありがとうございます。すごくうれしいです。
いい機会なので書いておこうと思いますが、私の拙い文章に評価(w)とか本当にもうしわけないので、できれば評価ではなく、感想だけにしていただきたいと思います。何勝手なこと言ってんだ糞とか思う方もいるかもしれませんが、お願いします。こんな文章に評価とか、恥ずかしくて死ねるorz
感想なら大歓迎ですので。あと誤字脱字指摘していただけたらうれしいです。

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