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桃登場。
波乱万丈、桃VS桜の対決の予感……!?
2章 ピンクの悪魔
10
 ◆ ◆

「ずっと、好きだったんだ……」
 拳を握り締めて、答えを待つ少年。背は目の前に腕組みして立つ人物より低い。メガネが顔より大きくて、ずり落ちて着ているのがなんだか滑稽だった。黒い髪はぼさぼさ。寝癖がついていて、とても告白の雰囲気にはそぐわない。
 それでも、頬を真赤にしながら、少年は精一杯の気持を伝えた。少し俯いて、それから少し彼女を見上げた……。

 今日も相変わらず、可愛らしい。
 小顔なのに大きな二重の目。ストレートの黒髪。長い睫毛は瞬きをするたびにぱちぱち音がした。

 彼女はふっと笑い自分より背の小さい少年を見下ろした。
 少年は息を殺して答えを待った。
「馬鹿は嫌い」
 一言、そういい捨てられて、少年の一世一代の告白は簡単に玉砕されたのだった。

 ◆

「あッ。ねえ、落としたよぉ?」
 少し間延びしたような高い声。どちらかといえば可愛らしい声。
 振り向いて、そこにいたのは腰まである薄いピンク色の髪の人。
 私に向けて笑顔で暗黒ノートを差し出してきて。
 それが、彼女(?)との出会いでした。

「あ、ありがとうござります!」
 とりあえずお礼をいい、それから、この交換日記が他人に見られなくて良かったと胸をなでおろしました。
 にしても……派手なお嬢さんです、特に髪の色。ピンクですよピンク。初めて見ました。こんな派手な人。

「あぁ……。もしかしてぇ……一ノ瀬桜ちゃん?」

 初対面のはずなのに、いきなり私の名前を当てられ、思わず後退ってしまいました。
「ど、どど、どうして……」
「やだやだぁ、そんなにぃキョドらないでよぉ」
 初対面の方にきょどったのは失礼でしょうか。だって私いつも挙動不審だし、私の存在自体不審だし。

「知ってるよぉ。一ノ瀬ちゃん有名人だもーん。編入試験オール99点で合格して、特Aに入ったんでしょぉ? 有沢蘇芳と同じ部屋で、最近よく一緒にいるよねぇ?」
 笑いながら、さらっと普通に個人情報を流出していますこの人。
 どこからそんな情報が……私だって自分の編入試験の点数知らないのに。
「私って、そんなに有名人なんですか? 今まで日陰で生きてきた私が……!?」
「うん、かなーり有名人! いろんな意味でぇ目立ってるし!」 

 色んな意味でって。
 不思議そうに私が首をかしげていると、彼女は声を立てて笑いました。

「でもよかった。ずっと一ノ瀬ちゃんとお話したいなぁって、桃思ってたのぉ。これも何かのご縁だよねぇ?」
「はぁ……」
「覇気がないなぁ、もう。女の子でしょー?」
 覇気がないのと、女の子がどう繋がるのか良くわかりませんが、桃さん(仮)は私の背中を思いっきり叩きました。べちっという肉の音が廊下に響きます。

「あの、もう行ってもいいですか?」
 次の授業は化学室なので、移動しないといけないんですが……。
 それに、私実は地味に今日当番で、実験の用意とか、雑用が待っているんですけど……。

「冷たいぞー、一ノ瀬ちゃん。せっかくなんだからお話しよーよ」
「――でも授業……」
「いいからいいからー、桃を信じて?」
 何か会話になってない会話ですねこれ。女の子ってみんなこうなんですか。でも……紫はもっとこうさばさばしているし、はっきりしています。

 そんなことを私が考えているとはつゆ知らず、延々と話続けます。
「楓から話は聞いてるよぉー。楓と仲いいんでしょ?」
「楓さん……って誰ですか」
 私の知り合いにそんな人いましたっけ。
 沈黙を続けていると、桃(仮)さんはその大きな目でじっと私を見つめてきました。
「やだぁ。知らないフリなんてしちゃってぇ。速星楓だよぉ? あ、そぉか。一ノ瀬ちゃん、大人しいんだってね。いつもクラスで浮いてるんだっけ?」

 まあ、あながち間違ってはいませんけど、その情報。人付き合いは避けています、何しろ回りは男ばっか。女は私と紫だけなので、否がおうでも浮いてしまうのです。

「メガネかけてるコって、みんなそんな感じだよねー。クラスに一人は絶対いる、まじめそうで、勉強まっかりやってて、根暗な子? って感じ?」

 そうかもしれませんね、どっちかというと、私は空気のような存在です。でも知ってますか、空気って意外と重いんですよ。
 ……でもそれって、かなりの独断と偏見だと思いますが。めがねは伊達の人だって沢山いますし、速星だってよく考えたら、メガネですよ。

 じゃあなんですか、速星は根暗で勉強ばっかりやってる空気的存在ですか。絶対違うと思いますけど。アレががりがり勉強してて、根暗だったら親近感が湧くかもしれません。根暗なヤンキーって存在したら笑えます。
 ていうかむしろ、速星はある意味あのクラスの中で浮いています。皆絶対引いてると思うんです。

「あのぉ……もう行ってもいいですか……?」
 話、どこまで長くなるやら予想がつかなかったので、申し訳ないですがここで終わりにして欲しいです。
 
「ねえ、一ノ瀬ちゃん。桃と、お友達になってくれなぁい?」
 え……。今、なんと言われましたか。失礼ですけど、一瞬全身に鳥肌が立ってしまいました。どうしてでしょう、嬉しすぎて、でしょうか。
 う、う生まれて、初めてです。

 同性からお友達になってと言われたのは……!!
 こんなことで喜ぶ私って小学生ですか。幼稚園児ですか、むしろそれ以下ですか!?
「わ、私で……いいんですか?」
 桃(仮)さんは頬の筋肉をひくつかせながら笑顔を浮かべました。大丈夫でしょうか、筋肉がれん縮してるみたいですけど……。
 ――まさか、脳梗塞? パーキンソン? 筋萎縮性側索硬化症? 思いつく限り、脳の病気をあげてはみましたが、全くわかりません。病院に連れて行ったほうがいいんでしょうか。
「あの……大丈夫ですか?」

「何がぁ? 桃は全然大丈夫。別にウざいとか思ってないから大丈夫」
 …………。

「そうですか、よかったです」
「え……何ぃ、スルー? 今の桃の言葉、聞いてなかったのぉ?」
え? 私は思わず首を傾げました。
「はい。聞いてました。大丈夫なんですよね」
 私は桃(仮)さんに笑顔を向けましたが、何故かなんだか複雑そうな表情です。
「……」
どうしたんですか、桃(仮)さん……。

「……一ノ瀬ちゃんてぇ、番長と、そういえば同じクラスなんだよねぇ」
「そうですけど……」
「あのクラスって、マジ異常。あんまり皆と付き合わないほうがいいよぉ。特に番長とは、仲良くしないほうがいいよぉ」

 どういうことですか……。どうしてそんなこと言うんですか……。確かにあのクラスが異常なことは認めましょう。

 だって、世の中番長で回ってると思ってますから、多分速星と有沢くん以外、全員そう思ってる気がします。
 朝番長には絶対挨拶。登下校はどう考えてもいらないとしか思えない厳重な護衛。
 コリスの番長にクラスの男が従うのははっきり言って頭おかしいですし、正直引きます。
 でも、紫は可愛いから、許されるんです。それに、番長なのに優しいし。かつあげなんてしてこないし、私をパシリにしないし。怖がったりしない。
 勝手に、本当に勝手ですけど、私の大切な、お友達です。

「そっか、知らないんだよねぇ。桃、番長とはずっと同じ学校だったから知ってるのぉ。番長って中学の時からやばかったんだよぉ。近隣の中学生相手に喧嘩ばっかりしててぇ……。今のクラスメートも大体は中学のときからの子分(?)なんだってぇ。相当結束固いよね。この学園を不良の巣窟にしようとたくらんでいるのよぉ!!」
 そ、そんな……。



 そんな、小学生だって信じなさそうな話、即興でよく考えられるなあと関心してしまいました。それが本当ならすごいことです。一応、進学校で名門中の名門と呼ばれているこの学園を不良の巣窟にするのは相当、不良さんも努力しなくてはいけません。
 ……努力して入学して。
 それでも不良と定義してもいいものでしょうか……。
「嘘です、紫はそんな頭の悪いことしません!」
「うッ……でもッ。嘘じゃないもんッ! 八割くらい本当のことだもん!」
 じゃあ、二割は嘘ですね、ていうか、全部嘘だろと、正直思っています。
「番長は昔死者出してるし、病院送りに5人もしたし……それから……」

「…………もう終わったからいい」
「……っ!!」
 突然、有沢くんが現れました。もう、何の前触れもなく現れるのはいい加減やめて欲しいです。なれないですよ、何回こういう目にあっても。
「雪見だいふくで許す……」
 あ……。
 有沢くんと私当番だったのに。
 ごめんなさい、雪見だいふくはあとでお供えするので許してくださいー。

「ごめんなさい。当番任せてしまって……本当は私も一緒にできればよかったんですけど」
 有沢くんは、私の横に立っていた桃(仮)さんを横目でちらっと見て、それから何かを言いたそうな顔でまた無言になりました。
「…………」
 …………言いたいことがあるならどうぞ心置きなくおっしゃってください。 
「…………仕方ないな」
 肺がつぶれてしまうのではないかと心配したくなるような、深いため息をつく有沢くん。何ですか、どうしてそんなにため息をつくんですか。そんなに当番をすっぽかしたことは罪ですか。
「…………あんまり知らない人に近づいたりしないように」
 ……はあ。あなたは私のお母さんですか。

「そういえば、病院送りにして、死者を出して、それからどうなったんですか?」
 怪訝そうに私と桃(仮)さんを交互に見る有沢くん。
「え、あぁ、桃、もう行かなきゃー。また今度ね、一ノ瀬ちゃん」
 何かから逃げるように、桃(仮)さんは背中をくるっと向け、走り去っていきました。
 ……一体なんだったのでしょう。


 ◆ ◆

 一ノ瀬桜が化学室に入り、通路を通るたびに周囲からざわめきと、忍び笑いが起こった。
 一ノ瀬桜は怪訝そうに、しかし何も言わず黙って席に着いた。周りのクラスメートが声を潜めて何かを囁きあう。そして、何故か卑猥な視線。
 桜は悪寒がした。
 顔が火照って、真赤だった。
「マジかよ……」
「大人しそうな顔してるのに」
「いや、俺は正直無理」
  
 有沢蘇芳は無言で彼女の隣に座った。――名簿順で構成された席順だった。
 それまでざわついていた周囲の男子は、水をうったように静まり返ってしまった。有沢蘇芳の身に纏う独特のオーラに、気圧されているようだった。
「一ノ瀬、ごみ、ついてる……」
「ほぇ? あ、ありがとうございままます」



『桜は淫乱女☆ セフレ募集中! エッチ大好きな人、声かけてねー』

 
「…………。(あの女にやられたな……。まあ、一ノ瀬は気付いてなかったみたいだし。鈍感だなホント。トドだな。言う必要……ないよな)」
「……そんなにじっと私の顔見て……。私の顔に何かついてますか?」
「…………トドだな」
 そう言った瞬間一ノ瀬桜の顔が膨らんだ。
 それがあまりにもおかしくて、有沢蘇芳は口の端を少しあげた。
さーて、これからどうなって行くのか……。
ちゃんと恋愛要素も取り入れていこうとは思っていますがね……

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