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10話ー。そして何かが動き出しそう。
1章 同室者
09
「『とりあえず鶏と鉢植え以外に友達を作ったほうがいい。反応のないものに話しかけて、頭の悪い女だと思われてもしかたないぞ。それから、朝納豆を食べるのはやめてくれ。ねばねばが残る。あと俺を避けるのは勝手だけど、避けておきながら監視するのはやめてくれ。視線が刺さるようだ。そして時々紫を見て笑っているみたいだけど、あの笑顔が怖いっていうかキモいから』

『言わせておけば好き勝手放題言ってくれるじゃないですか。それが貴方の本心なんですね。なんでノート上だとこんなに饒舌なのに他者とコミュニケーション取れないんですか。そんなんじゃ将来困りますよ。即刻会社首切りですよ。大体、ちょっと顔が可愛いからってすぐ黙っちゃうし……調子に乗ってませんか!? 大体有沢くんは授業中寝すぎです』

『そういう一ノ瀬も今日寝てた』

『見てたんですか!? 監視してるのはそっちじゃないですか!!』

『監視はしてない。たまたま目が行っただけだ。一ノ瀬は教室でびくびくしすぎ。何でそんなに怖がってるのか未だによくわかんないんだけど。もう一週間経つんだぞ? 勝手に冷蔵庫の中の雪見大福食べるなよ。太るぞ』
 
『……どうでもいいじゃないですか。私には私の事情が在るんですよ。それに六個あるうちの一個食べたっていいじゃないですか。それに食べられたくなかったら名前でも書いておけばいいじゃないですか。どんだけ雪見だいふく好きなんですか。太るの上等。むしろもっと太りたいです。どうでもいいですけど私にテレパシーを飛ばしてくるのはやめてください』

『飛ばしてないから。これ以上太ったら部屋から出られなくなると思う。その前にちょっとはやせたら? あと雪見だいふく買ってこい』

『ほっといてくださいよ。有沢くんこそ、ゆきみだいふくを一日に六個も食べたら絶対死にますよ。ゆきみだいふくの国のアリスになりますよ。……雪見だいふくは今日買ってきますから……(怒)』


……何、これ」

「ちょ、ひちょ、人の日記を勝手に読まないで下さい!!」
 私は顔を赤くして、広げていた暗黒ノートをとっさに閉じました。人に見られただけでも十分恥ずかしいのに、一番見られたくない男に見られました。ううっ万死に値しますか?

 それに、速星の顔がやけに険しい気がするのはどうしてでしょう。いつも険しいですが、今はいつもの1.5倍くらい険しいです……。身にまとう空気が冷たい。
「日記……、これが? これは日記とは呼べないでしょ。それになんで日記なのに有沢の名前とかでてくるわけ?」
 そんなの、交換日記してるからに決ってるじゃないですか……。むしろ貴方には全然関係ないじゃないですか。別に速星死ねと書いてあるわけじゃないんですから。有沢くんでそこまで過剰反応しなくたって。
「まさか、有沢と交換日記してるとか……なんてことあるわけないよねー」

 冷ややかな声でした。
 ぎょっとして、その場に凍りついた私はさぞや不審極まりなかったことでしょう。速星が怪訝そうに私の横顔を見ていました。
「あれ、本当にそうなんだー。どうせなら俺と交換日記しよーよ。これは交換日記っていうよりは、お互いをけなしあう日記だよ? ていうか文明が発達したこの時代で何で交換日記なの? 携帯電話という文明の利器を使って俺とメールしよーよ」
「ぜ、ぜ、ぜっ絶対嫌です」
 微塵もしたいとは思わないです。というわけで即答した私。
「そんな、即答するほど嫌なの?」
 いやそりゃ嫌ですよ。だったら死んだ方がましかもしれません。
 私だって、好きで有沢くんと交換日記なんてしてるわけじゃないんですから。
 フッと笑い、何故か視線をそらす速星。
「桜、悲しいね……。友達は鉢植えと鶏だけなの?」
 ……ほっといてください。真実が人を傷つけることだってあるんですよ。
「どうしぇ、せ、私の人生の友達は今まで一人もいませんでしたよ!! それもコレも全部全部全部、貴方のせいです!!」
 速星は一瞬目を大きく見開き、それから大声を上げて笑い出しました。
「え!? 嘘でしょ? だって今まで友達が一人もいないなんて……ご、ご、め……ん。お腹痛いわ……」
 確かにそうですけど……そんなに笑わなくたっていいじゃないですか……。私だって十分過ぎるくらい傷ついてるんですから……。
「わ、わたしだって……嫌ですよ。こんな自分。前の学校では何かホラーに出てきそうだとか、怖いとか色々言われるし、話しかけてくれる女の子は私をパシリに」

 私、今よりもっとずっと骨と皮だけだったんです。骨川筋子でした。そりゃもう肌も不健康な青白い色で、目なんてくぼんでましたよ。皆から骸骨みたいだとか、サダコだとか、ホラーだとかもう好き勝手放題いわれまくってました。
 それが嫌で太ってみたってのもありますが、世の中の男性は不細工は嫌いという統計があるじゃないですか。知りませんけどね。
「あーなるほど。パシリね。じゃあ俺のパシリになってよ」
 …………は? 
「あはははは」
 何を言われたのか一瞬理解できず、思わず笑う私。
「今、じゃあ――のくだりが全く理解できなかったんですが、どこをどうつなげればじゃあになるんです?」
 馬鹿アホ死ね速星。誰が貴方のパシリになるかボケ。ふざけんな。……これらの言葉を必死に飲み込んでなるべく温和に言ってみましたが、顔が引きつるのはどうしようもありません。
「ごめん、冗談。本当はこういいたかったんだ。俺の下僕になってよ」
 ダメです。完全に頭のねじが三本くらい飛んでます、確実に。今の聞き間違いでしょうか。たしか、最初が「げ」で始まり、最後「く」で終わっていたんですが。「げらく」……「げこく」……。
 「俺のげらくになってよ」といいましたか。なんですか俺の下落って。

「下落だろうが下刻だろうが、どっちにしても嫌なものは嫌です」 
「だって、紫の言うことは聞いてるのに、俺の言うこと聞いてくれないなんて不公平じゃない?」
 私の心臓が一気に飛び跳ねました。
 な……。どうしてここで紫のことが出てくるんですか。私誰にも言ってないはずです。もしかして、もしかして……。速星はただのヤンキーではなく、魔界の住人、悪の帝王だったのですか。人の心が読めるなんて、有沢くんとは正反対の魔界の住人ですね。
 これはレベル1の私が太刀打ちできる相手ではありません、ラスボス級です。

 速星は、黒いノートを持ち上げて私に見せました。
「だってさー、紫に頼まれたんでしょ? そうじゃなきゃ、桜、有沢とお互いをけなしあう観察日記基い交換日記なんてしないでしょ? 紫、ずっと片思いだからねー。いいように使われてるんじゃ、パシリとそう変わらないんじゃない?」
 心臓に冷たい氷を押し付けられたように、胸のうちが冷っとしました。事実ではないのに、何故だかすごく不安になっていく……。私は言葉をつむぎだすまでに、どれくらいの間をおいたのか自分でもわかりませんでした。
「……ち、違います…………」
 出てきた言葉はとても小さくて、自分の耳にも微かに届くか届かないかの、小さな声でした。
「へぇー、紫は自分をパシってないと言い張るの?」
 違います。
 だって、だって……。
「私は……紫の友達ですから……」
「そう思ってるのは、桜だけじゃないの? 紫はパシリ程度にしか思ってないと思うけど?」
 ダメ、心が折れそうです……。だって速星は、嘘を言っていないと思うから。
「い、嫌だな……冗談ですって。仮にも番長様と友達なわけないじゃないですか。私はチェリー部として動いているだけで……」
精一杯の笑顔を無理矢理浮かべたら、サダコになることはわかっていました。でも今は笑いたいんですよ。速星に弱みをみせたくないです。
 速星は面食らった顔で私を見ていました。一応、ダメージは1くらい与えられたかもしれません。
 じゃなきゃ私……。
 きっと壊れてしまう。

「ずるいね、桜。そうやって俺から逃げて。俺のことも忘れて。最後はチェリー部です? じゃあ、部長にお願いして、桜には俺の下僕になってもらおうかな……」
「い、嫌です……!!」
「そして最後はぼろ雑巾のように捨ててあげる。雑巾女と呼ぼうか? 紫も影で呼んでるかもよ、桜のこと。いい雑巾女だって」
 心拍が徐々に上がっていきます。なのに体の芯から冷えていくようで、指先からどんどん熱が奪われていきます。思考が止まりそう。頭がやけにぼーっとするんです。胸は縄で締め付けられるよう。苦しくて、呼吸が速くなる。体が胸から末端に向かってしびれていきます……。
 こんなことを、こんな根拠もないことを言われたくらいで、しょげてどうするんですか桜。
 しっかりしてください。
「誰も雑巾女なんて呼んでないし、パシリだとも思ってないと思う」
 この低くて悪寒のする声は……。
「有沢……本気で言ってるの? だってこれだよ?」
 有沢くんは速星からノートを無理矢理取り上げました。そして次に有沢くんが書くべきページをめくり、何かを黙々と書き出す有沢くん。
 私と速星はそれを覗き込み、思わず音読。
「「ああ、馬鹿か速星。人間、見た目より中身が大事って知らないのか。可哀想な奴だな。ゾウリムシ以下だな」」
 ゾウリムシ以下ってなんでしょう、アメーバって所でしょうか。
「……紫を見ろ」
 私と速星はクラスの男に囲まれて番長をやっていた紫を見ました。
「あれで番長だ……」
 うーん、確かに妙な説得力。遠くから見ても小さくて華奢で可愛い。くりっくりしていて、小動物です。ですが、紛れもなく紫は番長です。
「じゃあ聞くけど、有沢。桜の中身はいいと思う?」
 どんな質問してるんだてめー。と、思ったけど何も言えない私。
「………………そこそこ」
「ちょっと待ってください!! そこそこの答えを出すのにどれだけの時間を費やしてるんですか!?」
「……ざっと30秒ってところ」
 わかってました。この人のこと。そこそこ私だってわかってましたけど。沈黙の魔界のアリスめ。
「いや、仲いいね、有沢」
 うるさい、アメーバ。どこをどう見たら私と有沢くんが仲良しに見えるんですか。
「正直お前が羨ましいよ……。俺にもパシらせてくれよ」
「駄目だ」
 意外にも、有沢くんは即答でした。
「何で?」
 速星が笑っていましたが、有沢君は無表情のまま。
「速星は、一ノ瀬をすぐいじめたがるから」
「当たり前じゃん」
 ――当たり前ですって……?
 何が当たり前なのか二十字以内で述べてみろ、アメーバ。
「だって俺、やられたらやり返す主義だから」

 私があなたに何したっていうんですか――。 
理由、20字ぴったりで述べられました。
次回、桃登場ー。

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