とうげん−サヨナラまでの旅路(3/4)縦書き表示RDF


久々の更新です。次はもっと早く書き上げられるよう頑張ります。
とうげん−サヨナラまでの旅路
作:霜月伊麻里



第二話 奇怪なる世界


「…何か俺、こんなんばっか」

稲刈り前の状態の田んぼに落ちたため、ほとんど衝撃がなかった。水が抜いてあるようで、服もあまり汚れていない。

春陽は立ち上がって、畦道まで上がると呆然とした。

「何だここ…」

目の前には、小さな集落が広がっていた。建っている建物は、茅葺きや板を張った木造ばかりだ。集落の人々は皆が皆、着物を着ている。“江戸時代の農民"という言葉がピッタリの人々だ。

「…?」

春陽は困惑した。
目の前から女子供がいなくなり、かわりに男たちが春陽を取り囲みだす。
手にはそれぞれクワや鉈、刀を持っている者までいる。その目は、尋常ではなかった。

「………あのー?」

「…何故、人間がいる」

村人の一人、帯刀した男が呟いた。
自分に向けられた言葉ではないと、春陽は察する。

「…どうします?野放しにするのはアレですが、始末するのはもっと…」

──何か物騒なこと言ってるー!?

「ならば、俺が殺る」

帯刀した男が刀を抜き、振り上げた。
止めようとする者は誰もいない。

「わっ!」

春陽は、自分を庇うように手を目の前に出す。
思わず目を閉じた。

─ガシィ!

何かがぶつかる音。
痛みは、やってこなかった。

「それくらいにしておけ」

驚いて、春陽が目を開く。

そこには、先ほどの少女が春陽を庇うようにして立っていた。

両手で持つ男の刀を、少女は刀を鞘におさめたまま左手で受け止めている。

「…この者は、まだ何も知らない子供。この場は私に免じて治めてくれないか?」

少女が男を見据える。幼い声だが、凄みがあった。

「正気か!?そいつは人間なんだぞ!!」

──…“人間”?

男と少女の視線がぶつかる。
男は、今にも少女に斬りかかりそうだ。

「…えっ!?」

少女が突然叫んだ。男のやや右を指差す。
男や他の村人たちも、用心しながら少女の差した方を見た。

次の瞬間──。

「走れっ!!」

少女が春陽の手を掴み、走り出した。
春陽は半ば引っ張られる形で走る。

陸上部の春陽と人間離れした少女に、誰も追い付くことはできなかった。



「……ッハ…ハァ…ッ」

木の根本に、春陽はペタリと座り込む。

春陽が辺りを見回した。
あるのは木ばかり。
どうやら、相当森の奥深くまで走ったようだ。

呼吸を落ち着けようと深呼吸を繰り返しながら、春陽は少女を見る。
疲れを微塵も感じさせない。呼吸も乱れていない。
長距離走者の春陽でも、あれだけのスピードと距離をはしって疲労しているのだが、少女は汗一つ浮かべていない。

「…ありがとう、助けてくれて。君、名前は?」

春陽が少女にそう聞くと、少女は少し顔を歪める。

「……伊世だ」

春陽の礼には応えず、自分の名を少女──伊世は名乗る。

「伊世か。俺は春陽。春でいいよ」

自分も名乗り、春陽はしばらく伊世を見ていたが、伊世はそれ以上何も言わない。

さすがに、春陽も居心地が悪くなる。

「──…えっと。アレって何だったのかな。俺、何か悪いことしちゃった?」

もしかして、田んぼに突っ込んじゃたの怒ってたのかな。

そう言う春陽に、伊世は小さく溜め息をついた。

「……“した”わけじゃない。お前は私たちにとって、存在していること自体有害なんだ」

「……え」

伊世のあまりの言い様に、春陽が唖然とする。

「──…それって」

「私たちは、お前たちを“厄疫”と呼んでいるくらいだからな」

ボソリと伊世が呟く。

「……やくえき?」

「厄は“禍”、疫は“疫病”のことだ。穢れ…つまり邪気を、人間は持ち込むからな」

「…え。人間て……」

「私たちは人間じゃない。お前と私たちは似て非なる存在、妖だ」

春陽の反応を待たずに、伊世が歩き出した。

「あ…あやかし?」

慌てて春陽も立ち上がり追いかける。

「妖怪…は知っているな?その類いだ。人間は私たちを妖と呼んでいる。私たちは私たちの定義を持たない。それで十分だろう」

──妖怪って…。

春陽は伊世の後ろを歩きながら首をひねる。

──おちょくられてるのか?

だが、そんな人物には見えない。

「………つまり、人間じゃないんだ?」

「そうなるな」


歩きながら、春陽は目眩を感じる。
状況をきちんと把握できていなかった。

突然伊世が振り返る。

「行き先を言っていなかった。稲荷の社へ行く」

「は?」

拾いモノおまえを連れてこいと言われたんでな」

伊世のその言葉に、春陽の足が止まった。

先ほどの話から考えて、自分は歓迎されていない。あの村人も、自分を殺そうとした。

──…だったら、このまま彼女についていっていいのか?

「安心しろ。お前をどうこうする気はない」

春陽の不安を察したのか、伊世が振り返り微かに微笑む。

そこに、敵意は感じられなかった。


駄文ですが、最後まで読んでくださってありがとうございます。











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