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俺を召喚したせいで異世界が魔力を使い切ったようです

作者:昼熊
「ヲギスャエキワヌアエズ、ヤケザユットクトケロチヨエスュヤ」

 藍色のローブを着込んだ、髭の立派な老人が何か話している。
 満面の笑みを浮かべて話しているのだが、何を言っているのかさっぱりだ。
 ん、んーー、ええと、その、なんだ……何処だここ⁉
 そもそも、自分がなんでこの石造りの古めかしい部屋にいるのかも謎なのですけどっ!
 今日は珍しく定時に会社が終わり、意気揚々と帰宅途中に足下が光って……気が付いたらこの状態。
 そして、聞いたこともない外国語でまくしたてる老人。他には槍を手にした、全身鎧を着た人が数名いる。
 矛先を俺に向けていないので、敵対しているわけじゃないようだけど……なんで、全身鎧なんだよ。こんなの映画かゲームでしか見たことないぞ。

 部屋の壁にある灯りも蛍光灯じゃなく、壁に掛けてあるカンテラ? という名前だったと思うけど、その灯りの光量が足りずに室内がちょっと暗い。
 この異様な状況なら、もっと俺も慌てるか動揺するべき場面なのだろうが、昔から驚いても声を出したり顔に出ないタイプなので、相手からは冷静に見えていることだろう。
 心の中は結構ヤバいぐらい取り乱していたけどな!
 あまりに状況が異常すぎたり、目の前に自分より取り乱している人がいると、妙に冷静になったりするよね!
 興奮している老人は意味不明語をまくし立てた後、俺の手首に銀のブレスレットを巻いた。抵抗してもよかったのだが、武器を持った鎧が後方に控えている状態で反抗的な態度を取れるほど、肝っ玉は据わっていない。
 ここは従順な態度で友好的に振る舞うべきだろう。

「勇者様、私の声がわかりますかのう」

「えっ、日本語話せるの?」

「いえいえ、貴方様の手に巻き付けた腕輪は翻訳機能がありましてな。相手の話す言葉の意味を読み取り、装着した者へ伝えるのです。故に、我が国以外の言語も翻訳されますぞ」

「見た目に反して、オーバーテクノロジーなのですね……SFというか、魔法みたいですよ」

「それは魔道具ですからのぅ。それも偉大なる賢者が作られた……と、そのような話は後にしましょう。勇者様に今の状況を説明しなければなりませんからのぅ」

 そうだった。つい、言葉が通じる喜びで誤魔化されそうだったが、勇者呼ばわりしてくる、この人たちが何者で、どういう状況なのか教えてもらわないと。
 正直、嫌な予感しかしないけど。
 老人の話によると、ここは異世界らしく魔法が発達した世界だそうだ。
 そして、定番の魔王の進行により世界が窮地に陥っていて、異世界から勇者を召喚したという――王道ストーリーだった。
 うん、こういう話、無料小説投稿サイトでうんざりするほど見てきた。

 普通のサラリーマンが呼ばれたところで戦力になるわけがないのだが、異世界から召喚された人間は魔力量が現地人とは比べ物にならず、その魔力により身体能力も強化されているらしい。
 魔力というのは魔法を使う力だけじゃなく、魔力量に応じて体が強化されるらしい。この世界の個人が有する魔力であれば、魔力が多ければ身軽で体の割には力持ち程度なのだが、俺は桁外れなので人外の領域だということだ。

「説明はわかったけど、そんなに力を感じないなぁ」

 その場で飛び跳ねてみたが、今のところ日本と大差ないように感じる。

「まだ、召喚の余波で体が慣れておらぬのでしょう。明日にでもなれば、力がみなぎってきますぞ」

 この世界に体が馴染んでいないということか。
 状況も能力も魔力も理解しやすくて助かる。異世界転移関連の小説が好きで助かったよ。

「王や姫がお待ちになられていますので、こちらへ……おや?」

 老人が手にした杖を木製の扉に向けた状態で動きが止まった。首を傾げもう一度杖を振るが特に何が起こるわけでもない。

「召喚の儀式で魔力を使いすぎてしまったか」

 どうやら魔法の力で扉を開けるつもりだったようだ。
 全身鎧が代わりに石壁に囲まれた重苦しい部屋の扉を開けると、そこは先が見えないぐらい真っすぐに伸びた廊下があった。
 時刻は昼過ぎの様で、右手の窓から明るい日差しが降り注いでいる。
 そして、その廊下を多くの兵士やメイドらしき人物が――右往左往していた。
 ん? ここは歓迎して廊下に人が並んでいる、という流れを期待したんだが、どうやらそれどころじゃないようだ。
 慌てた様子で廊下を走り、壁際のランタンを調べ、部屋に飛び込み暫くして飛び出してくる。そんな人々の姿があった。

「お主ら、どうしたのじゃ。勇者様を出迎えんかっ」

 老人が近くを走り抜けようとしたメイドを捕まえて怒鳴りつける。

「も、申し訳ありません! ラックゲイリオン様」

「謝罪はよい。いったい、どうなっておるのだ」

「じ、実はつい先ほどから魔法が使えなくなっているのです! 魔力が失われたようで、力も出せず困り果てております。魔道具も動かなくなってしまい」

「なにっ⁉ 召喚の儀式の影響か? 儀式で魔力を消耗して体が重いと思い込んでおったが、魔力の消滅……決めつけるのは尚早か。お主らは、どうだ?」

 老人の問いかけに応じて全身鎧たちが体を動かしている。ガチャガチャと鎧の擦れる音がうるさいが暫くすると、ビシッと直立不動の体勢に戻った。

「いつもより鎧が重く感じます。気のせいかと思っていたのですが、魔力が失われたというのは本当かもしれません……」

 兜の中からするくぐもった声には覇気がなく、中の人もかなり動揺しているようだ。

「まさか召喚の儀式でこの世界の魔力が乱れたのか? お主たちは勇者様を客室に連れて行くように。王に説明と現状の確認をしてくる。勇者様申し訳ありませんが、暫くの間、客間でお待ちいただけますでしょうか。我が家と思いおくつろぎください」

 礼儀は忘れていないが早口で一気に話すと、俺の返事も待たずに足早に去っていく。
 とんでもない事態になっているようだ。それも、どうやら俺を召喚したのが原因らしい。最終的に俺のせいとか言い出して、処罰されないよな……?
 不安を覚えながらも、どうしようもないので、大人しく全身鎧に促されるまま客間へと入っていく。

「どうなるんだ」

 途中までは、ありきたりな異世界転移のストーリーだったというのに。
 魔力が乱れただけで元に戻るなら問題はないが、本当にこのまま魔力がなくなったら……俺もただの人間のままってことだよな。
 状況が悪化せずに好転しますように。そう祈ろうとしたが、ここの神の名も知らないので窓から見える太陽にでも祈っておくことにした。




 その日から、この世界は一転した。
 世界中から魔力が失われ、人々の力が激減したのだ。ここの住民は魔力のおかげで地球の人々よりも身体能力が優れていた。巨大な大剣を振り回したり、鉄の全身鎧を着て平気でマラソンができるぐらい。
 だが、今は地球と同じぐらいの非力さになってしまい、今まで使用していた武器や防具だけではなく、様々な道具も使用が困難になってしまっている。
 更に魔法使いというのは地位の高い存在――だったのだが、魔力が失われた世界ではただの非力な人だ。職を失い、路頭に迷う人も少なくない。魔力というのは血が大きく影響を与えるらしく、魔法使いというのは代々名門の家系でプライドが高い者が多い。
 そのプライドが邪魔をして別の仕事をすることもなく、ただ財産を無駄に減らす日々を送っているそうだ。

 それだけではなく、住民の誰しもが簡単な魔法が使える世界なので、火や水や風などを魔法に頼っていたので、それがなくなり人々の生活に大きな影響を与えた。
 日本でいうなら、電気、ガス、水道がいきなり止められたようなものだ。もう、城も街もパニック状態。
 そこに魔物が押し寄せてきたら人々は滅びるしかないのだが、魔物たちにも魔力消滅の影響があった。いや、むしろ魔物たちの方が多大な被害を受けたようだ。
 魔物というのは世界中に漂う魔力が動物に取り込まれ、突然変異した存在らしい。魔族と呼ばれる人に似た魔物も元は人だった。
 そんな魔物たちが魔力を失うことで、元の動物や人に戻ったのだ。
 今や魔王軍は人と動物の王国と化しているようで、世界征服どころか自国をまとめることすら危うい。
 各国もそれどころじゃないので、争いは消滅した。

「そうなると、俺の意味がないわけで」

 世界を苦しめる魔物がいなくなり、国はインフラ整備で大忙し。
 勇者として呼ばれた俺は「好きにしていい」と言われ城から放り出された。
 魔力が消滅したことで、俺が日本に戻る方法も消滅。
 ファンタジーな世界での冒険譚は始まる前に終了。世界には動物が溢れ、人々は懸命に働いている。魔法前提の世界だったので不便極まりない日常。
 町を散策してみるが、みんな忙しそうだ。

「ああくそ、武器全部作り直しだ! このままじゃ、重くて誰も使えねえ!」

「はい、師匠!」

 武器屋の前を通りかかったのだが、奥の鍛冶場から男の怒鳴り声が聞こえる。
 町中の人々の身体能力が下がったので、全てが重くて扱えないらしい。そこで、俺は店に入ると投げ売り状態の長剣と手斧を購入することにした。
 あと防具やナイフなども買っておくか。迷惑料としてある程度の金はもらったしな。

「買ってくれるのは嬉しいんだけど、今までと違って重いわよ?」

 店員の女性が心配そうにこっちを見ている。

「元々、かなりの怪力だったので、これぐらいなら大丈夫です」

「そう、ならいいんだけど」

 隣接している道具屋で旅用の必需品を買い求め、なんとはなしに食堂らしき店に立ち寄ってみた。

「休業中か」

 武器が使えないということは獲物を狩る術を失ったってことだもんな。
 農耕具だって一から作り直さないといけないだろうし、街の機能が復活するのはどれぐらい先になることやら。

「街灯は全て油の灯りに替えないとダメか」

「魔道具が使えませんからね」

 大通りの脇に等間隔で設置されている街灯を見上げて、ため息をつく男女の姿がある。現代日本における電気の代わりとして魔力を使用した物も多く、その類は全て別の物へと取り換えられていく。
 魔道具に比べると性能が劣るものばかりだが、どうしようもないことだ。
 こういう場合、村とかの方が魔法に頼らない生活をしているという情報を得て、俺は街を後にした。

「さーて、どうするかな」

 この世界は今混乱している。世の中が落ち着くにはもう少し時間が必要だろう。

「どこかの村に滞在して住ませてもらうとするか」

 今はどこも人手が足りないはずだ。身体能力が優れた者は重宝される。
 遠くに目を凝らすと、森を抜けた先の、山のふもとにある村が目に入った。距離は数十キロはありそうだな。

「一人山奥で暮らすのもありか」

 周りに人がいないことを確認すると、歩く速度を徐々に上げていく。
 蹴りつける地面が陥没して、周囲の風景が飛ぶように過ぎ去る。

「実は世界中の魔力が全てここにあるってことがわかったら、世界中を敵に回す羽目になりそうだよな」

 俺を異世界から呼ぶために世界中の魔力を使い果たした結果、このような事態を招いたということになっているが……実際はそうではないことを、俺だけが知っている。
 あの魔法陣にミスがあったのか、それともそういうものだったのか。世界中の魔力は失われたのではなく、この体に吸収されてしまった。
 そのおかげで尋常ではない力を手に入れることとなったのだが――事実を誰にも明かしていない。このことが知られると命を狙われる危険性が高いからだ。

 世界中の魔力がこの体にあるということは、器を破壊……つまり、俺を殺せばこの世界に魔力が戻ると考える輩が現れる。その可能性が低いとしても、絶対にやる。
 魔力があった頃の生活を覚えている人々が、今の不自由な世界から元に戻れるかもしれないと知ったら、各国が総力を挙げて俺を殺害せよ、と討伐隊を組んでくるだろう。
 今の実力なら片手間で撃退できる自信はあるが、油断は禁物。それにずっと人に恨まれて命を狙われる生活などまっぴらごめんだ。
 この世界で唯一の魔力保持者となったのだ。この世界の人々には悪いが、俺は俺らしく生活させてもらうことにする。
 せっかくの力だ、異世界を堪能させてもらおう。



この作品はあらすじでも触れましたが、短編推理小説でダイイングメッセージを当てた読者から厳選なる抽選の結果(サイコロ運)選ばれたLiX様から頂いたお題で書いた短編小説です。
結構うまくまとめたつもりですが、どうだったでしょうか。

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