俺は…ある新月の晩、一度…一度だけ見たことがある…
それは…闇の中で蠢く闇、
闇の中でさえはっきり見える漆黒の…闇、
光など存在しない、
そこにあるのはただただ…闇、
全てを飲み込む…闇、
あれを気付いてはいけない、
あれに気付かれてはいけない、
俺の…失われたと思われてた…動物的直感が…俺に警告を発している、
俺は、気付かないふりをして…通り過ぎた、
後ろで、闇が、振り向いた、気がした、
あれから、数年が過ぎた、
俺は…あの存在など、忘れていた、
だが、あるとき、俺の人生の転機は訪れた、
ある、夏の日、俺は深夜のコンビニでバイトをしていた、
客は居ない、
店員も俺以外居ない、
俺一人の空間、
なにをするでも無く、
ただ、外を見ていた、
あの時、あれが、現れた、
闇に蠢く闇、
漆黒の中でさえはっきり見える…暗黒、
俺は、なるべく、自然なように、目をそらした、
クーラーが効いてる店内に居る筈なのに汗が滴る、
喉が渇く、
俺は、ごく自然なように掃除を始めた、
…少しでも、やつとの距離を離したかった、
…
俺の第六感は、警鐘を鳴らし続けている、
やつが、後ろで牙を剥いている気がする、
汗が滴る、とめどなく、滴る、
…バンッ!
俺の肩に何かが乗った、
心臓の音が聞こえる、
俺は勇気を出して振り向いた、
そこには、人が見えた、
…客?
俺は安堵した、
……客が申し訳なさそうにレジを催促する、
俺は、慌てて、レジに向かった、
この日から、俺は、やつが、頭を離れなかった、
俺は同僚に防犯カメラを確認させた、変な客が居た、と、嘘をついて、
同僚はなにも映っていないと、言った、
それはそうだ、そんな客はいないのだから、
俺は同僚に黒いものが映っていないかと問いた、
そんなのは映っていないと同僚は言った、
俺は、ビデオを見た、何度も巻き戻し、早送り、
そこには、俺が映っていただけだった、
同僚は不審そうな顔だった
俺は、それ以来、コンビニのバイトは辞めた、また、やつにあうのが恐かったから、
ある朝、俺は街に出た、
友達と、遊びに、出た、
楽しかった、
やがて、いつの間にか、日が暮れた、
俺は、友達と飲んでいた、
小さな、町外れに、ポツンと佇む、屋台で、
やがて、酔いも回り帰ることにした、
俺は、友達と別れ、歩いて家に向かった、
あの、コンビニの前を、通り掛かった、
そうして、やつが、現れた、
戦慄が走る、脳は逃げろ、と、全身に指令を下す、
全身はその命を拒否する、
否、受諾できない、
全身は金縛りにあったように動かない、
やがて、やつが、こちらを向いた、気がした、
やつは、闇、顔など見えない、
…あるのかさえわからないが、
しかし、俺は、直感する、
やつは、こちらを向いて、笑っていると、
俺の脳が下した指令はようやく、実行される、
俺は、弓から放たれた矢のように、夜闇の中を、走り去った、
俺は逃げ切った安堵と共に、恐怖した、
やつに見つかった、と、
それから、俺はやつを調べた、
伝説、伝承、都市伝説、噂、果てはホラー映画まで、
だが、やつは、わからなかった、
ある日、俺は、外に出た、
勿論、昼間に、
そうして、気付いた、
後ろをつけている何かがいると、
どこを曲がってもついてくる、
間違いない、やつだ、
俺は、やつが現れたときの対策として持っていた、刃物を、懐から、やつに気付かれないように、取り出した、
次のかどを曲がったら決めよう、
そう、心に決め、次のかどを、曲がる、
ザシュ、
俺は、やつに、刃物を、突き刺した、
やつは、倒れた、
やつは、死んだ、
俺が、殺した、
やつを、俺が、殺した、
俺は歓喜した、
やつは、死んだのだ、
俺が、ケリをつけたのだ、
俺は、狂喜し、足取りも軽やかに、帰ろうとした、
…
足が止まった、
やつが、いた、
こちらを、見つめていた、
やつは、醜い笑いを浮かべ、佇んでいる、
だから、刺した、
念入りに、刺した、
もう、現れないように、必死で刺した、
だが、やつは、現れた、
また、醜い笑いを浮かべて、
また、刺した、
もう、現れないように、
念入りに、念入りに、
そうして、俺は、去った、
だが、やつは、現れた、
何匹も何匹も、現れた、
俺は片っ端から、刺した、
見つけるたびに、刺した、
そうしているうちに、やつは逃げはじめた、
その顔には、醜い、醜悪な、笑いを浮かべて、
だから俺は、刺した、
追い掛けて、刺した
やがて、やつらは、集まって来た、
やつらが何かを叫んでいる、
だが、俺に、やつらの言葉など、わかる筈がない、
俺は、やつらのもとに向かい、刺した、
やつらは、何かを叫び、
パン、と、タイヤがパンクしたような、音がした、
何かが、肩と足に、突き刺さる、感覚があった、
だが、俺は、倒れなかった、やつらは、まだ、残っているのだから、
俺は、歩き出した、足を引きずりながら、
やつらのもとに、
そうして、もう一度、
タイヤが、パンクしたような、音が、聞こえた、
俺は、倒れた、
やつらが、何かを叫び、俺の方に向かって来ているのが、わかった… |