第五話:キス
崩れるように倒れたシルヴィの身体を、ジルフォードがしっかりと抱きとめた。
「おい!大丈夫か!おい!」
シルヴィはぐったりとしていた。
身体が燃えるように熱い。
彼女の色白の額からは朝露に似た汗が流れ、苦しさを露にするように呻いていた。
息も荒く肩で呼吸しており、目は固く閉じられていた。
「とりあえず彼女の家へ……」
ジルフォードはシルヴィを抱きかかえると、両の瞳を閉じて意識を集中させる。
静寂がジルフォードとシルヴィを包みこんだ。
「……風の大精霊であるシルフェに仕える小妖精たちよ、今ここに集え。我が行くべき道を教えよ。」
ジルフォードが静寂を破り、凛とした声で唱える。
すると温かい風が、彼とシルヴィを守るように優しく包みこんだのだ。
風はジルフォードの金色に輝く髪を、形の良い耳を撫でる。
「………そうか。わかった、ありがとう。」
ジルフォードがそう言うと風はピタリと止んだ。
彼は苦しそうに呻くシルヴィを抱きかかえ直すと、ユベールが消えた森とは反対方向へ歩き出した。
小妖精に教えられたとおりの道を行くと、シルヴィの家に着いた。
ジルフォードは早速シルヴィをそっとベッドへ寝かせた。
シルヴィの容態は悪くなる一方で、顔は青白く唇は青みを帯びた紫色に変色していた。
「ユ・・・ベール・・・」
うわ言でシルヴィは兄の名前を呼んでいた。
おそらく兄の夢を見ているのだろう。
「このままだとマズイな・・・」
洗面器に汲んできた水で濡らしたタオルを、優しくシルヴィの額に当てながらジルフォードは呟いた。
一刻も早くなんらかの手当てをしなければ、命に危険が生じることになるだろう。
ジルフォードはふうと息を吐いた。
どうするか・・・・・・
タオルがぬるくなったため、洗面器の水で再び濡らしながらジルフォードは思案した。
ふとシルヴィの顔を見た。
青みを帯びた紫色になってしまっている唇と、幾分かやつれてしまったかのような顔を見た。
その姿は、今は亡きジルフォードの母の死ぬ間際と重なった。
目の前で何もできず死ぬ姿を見るのはもうごめんだった。
「やむを得ないな。」
ジルフォードは意を決し、ネクタイを緩め白いシャツを脱ぐと、上半身裸になった。
「……すまない。」
ジルフォードはシルヴィに馬乗りになると彼女の衣服を脱がせ、自分と同じく上半身裸にする。
ためらいがちに、シルヴィの汗ばんだ半身に自分の半身を重ねた。
やましい気持ちも下心もあるわけではないが、申し訳ない気持ちにジルフォードはなっていた。
他に方法はない……人肌で熱を吸うだけだ……
シルヴィの形良い乳房の柔らかさと女性らしい匂いを感じ、ジルフォードの心拍数は高鳴っていく。
どうでもよいが昨日きちんと体を洗っておいて良かった、と改めてジルフォードは思った。
「ううっ・・・・・・うあ・・・・・・ああ・・・・・・」
シルヴィに異変が現れた。
痙攣している。
目は固く閉じられ涙を流し、シルヴィは訴えるように呻いた。
異変に気づいたジルフォードは冷静だった。
ジルフォードは目を閉じて早口で呪文を唱えると、シルヴィの紫色の唇に自分の唇を重ねた。
魔法を、シルヴィの口を通して流し込んでいく。
これは治癒を施す魔法である。
幼い頃自分が高熱を出した際に父に同じことをしてもらったのだ。
おそらくこれで治癒するだろう、とジルフォードは考えたのだ。
がくがくと動いていたシルヴィの体がしだいに動かなくなり、呼吸をするだけの上下運動をするようになっていった。
ジルフォードは重ねていた唇をそっと離し、シルヴィを見やる。
シルヴィの顔から青白さが消えうせており、健康的な肌の色を取り戻しつつあった。
呻かなくなったし、寝息も安らかになっていた。
身体の熱も燃えるように熱かったのが、今はほんのり熱を帯びている程度になっていた。
安心したジルフォードは、シルヴィに衣服を着せるとほっと胸を撫で下ろした。
|