BLUE BLOOD〜二つのブレスレット〜(4/11)PDFで表示縦書き表示RDF


 この話までで春野天使先生原案の話は終わります。
次話からは完全なる私のオリジナルの展開になります。
BLUE BLOOD〜二つのブレスレット〜
作:白鳥炎応



第三話:再会


 花は次々と売れて、シルヴィの籠の中の花はほとんどなくなった。

──来て良かった。危険なことなんて何もなかったわ。

 シルヴィはホッと一息つく。この売れゆきなら、明日もまた来てみようと思う。
 と、突然、大きな歌声が聞こえてきた。歌声というより、怒鳴り声のような騒音に近い声だ。
 前方に目をやると、酔っぱらった兵士達が肩を組み、千鳥足で歩いてくる。
 シルヴィは彼らを無視し、急ぎ足で通り過ぎようとした。

「おっ、花売り娘だ!」

「俺達にも花を売ってくれ!」

 酔っぱらい達はシルヴィに目を付けると、行くてを塞ぐように立ちはだかる。

「ごめんなさい。今日の分はもう終わったの。」

 シルヴィはしっかりと花籠を抱え、男達を見つめ返す。

「まだ籠の中にあるじゃねえか。」

「花がダメなら、お前でもいいぞ。お前の方が花よりずっと良い。」

「そうだ。お前を買ってやろう! いくらだい?」

 男達はいやらしい目つきでシルヴィを見ては、大声で笑い合った。
 シルヴィは男達を避け、歩いて行こうとするがグイッと腕を掴まれた。

「小娘じゃあるまいし、いいじゃないか。花を売るよりずっと金になるぞ。」

 シルヴィの腕を掴んだ兵士が、ニタリと笑う。

「この町の女はいい女ばかりだが、お前は特に美しいな。」

「放してください!」

 引き寄せようとする男の腕を振りきろうとした時、シルヴィの腕から籠が落ちた。

「花なんか放っておけ。俺達と一緒に飲みに行こう!」

 落ちた花を踏みつけられ、シルヴィは別の男にもう片方の腕を取られた。

「町の女どもは、金目当てに平気で体を売っているんだ。お前なら他の女より、うんと金を払ってもいいぞ。」

「嫌! 私は彼女たちとは違う!」

 シルヴィは踏ん張るが、男の強い力にズルズル引きずられそうになる。

──助けて!

 恐ろしくて声が出ず、思わず目を瞑った。そのまま男達に連れて行かれそうになった時、誰かの声がした。

「待て! 彼女は俺と約束しているんだ」

 男達の歩みがとまり、シルヴィは別の誰かに体ごと引き寄せられた。

「俺の女だ。」

 知らない男の腕の中に抱きしめられたシルヴィは、恐る恐る目を開ける。
 男の腕がシルヴィを掴み、その体温が体に伝わる。
 男はしっかりとシルヴィを抱いているが、決して乱暴ではない。

「……あの?」

 ドキドキしながら男の顔を見上げようとするシルヴィに、男は小声で呟いた。

「大丈夫、俺に任せて。」

 酔っぱらった男達は、男を睨み付ける。

「何だと? 若僧がえらそうに。」

 迫ってくる酔っぱらい達に、若い男はポケットから紙幣を差し出した。

「喧嘩は好きじゃない。この金で飲み直して来いよ。」

「フン……」

 酔っぱらいの兵士達は、若者の紙幣を黙って受け取った。

「ま、今回は許してやるか。」

 金を懐にしまい込んだ男は、他の男達と顔を見合わす。

「しらけちまったな。また飲み直そうぜ!」

 酔っぱらい達は、また大声で歌いながら、フラフラと通りを歩いて行った。彼らの姿が店の中に消えると、若者はサッとシルヴィを放した。

「……あの?」

 シルヴィはその場に突っ立ち、若者を見上げた。
 優しい目をした金色の髪の精悍な若者。
 シルヴィは頬を染めて彼を見つめた。

「ありがとうございます!」

「いや、こっちこそ、いきなり抱きついて悪かった。」

 青年は軽く頭をかき、落ちた籠と花に目をやった。

「花は台無しにしてしまって申し訳ない。」

「あ……」

 シルヴィは慌てて、籠と花を拾う。男達に踏まれた花は、ぐったりとなっていた。

「お詫びにその花を全部買うよ。」

 若者はシルヴィが手にした花を見ながら言った。

「え?」

「これから人に会いに行くから、花を買っていこうと思うんだ。」

「でも、この花はもうダメだわ……」

「良いさ。なんなら、少し安くしてくれるといいけど。」

 若者が笑い、シルヴィも微笑んだ。

「それなら、この花は助けてくれたお礼にあげるわ。」

 シルヴィは籠の花を束ねると、若者に差し出した。

「本当に良いのかい? 幸運だな。」

 シルヴィは頷き、花を手渡す。その時、若者の手首で何かが光った。

「あっ、それは……」

 若者の手首に目をやったシルヴィは、驚いて目を丸くする。
 彼は腕にブレスレットをしていた。
 それは、シルヴィとお揃いのブレスレットだ。
 淡いブルーの石の粒。

「間違いないわ。ユベールのブレスレット……どうしてあなたが?」

 シルヴィはじっとブレスレットを見つめ、自分の腕にしたブレスレットを若者に見せる。

「……もしかして、ユベール? あなたはユベールなのね!?」

 驚きが喜びに変わる。シルヴィは目を輝かせ、若者を見上げた。

「……君は、シルヴィ……?」

 若者はじっとシルヴィを見つめ返した。

「そうよ、私はシルヴィ……あぁ、本当にユベールなのね、嘘みたい。」

 シルヴィの青い瞳から涙が溢れ出る。

「ユベール、会いたかった。」

 シルヴィはしっかりとユベールを抱きしめる。
 後から後から涙が溢れ、シルヴィの頬を濡らしていく。

「母さんが死んで、私、ずっとひとりぼっちだったの……ずっと一人で花畑を守ってきたわ。どんなにあなたに会いたかったか分かる……?」

 ユベールの胸に顔を埋めて、シルヴィは体を震わせながら泣いた。
 ユベールは戸惑いがちに腕を伸ばし、シルヴィの体をそっと包みこむ。

「……海の向こうでは戦争が始まって、若者は皆兵士にとられ戦っているって聞いて、すごく心配したわ。でも、戦争は終わったのよね? 良かった、あなたが無事に帰って来てくれて。もう、どこにも行かないで……」

 シルヴィはゆっくりとユベールの体から離れ、頬を濡らす涙を拭った。

「帰りましょう、私たちの家に!」

 ユベールを見上げ、シルヴィは微笑む。

「どうかしたの、ユベール?」

「え?」

「私と再会したこと、あまり嬉しそうじゃないみたい。」

 シルヴィはクスリと笑った。

「あ、いや……あまりに長い間会っていないから、君がシルヴィだと思えなかったのさ。すまない。」

「謝らないで。あの時、私たちまだ七歳になったばかりだったもの。」

 シルヴィは自分と同じ青い瞳のユベールの瞳を見つめる。

「あの頃は、私たち背の高さもいっしょだった。でも、今はあなたは立派な青年ね。背だって私よりずっと高くなって逞しくなったわ。」

 シルヴィはユベールが抱えていた花束に目をうつす。

「その花束、私にくれようとしてたのよね? ありがたくいただくわ。」

 悪戯っぽく微笑み、シルヴィはユベールから花束を受け取る。

「ついでに市場で買い物をして帰りましょう。今夜はうんと御馳走するわ。」

 シルヴィは言いながら、先に歩いていく。

「あ、シルヴィ。」

 ユベールは右足を少し引きずりながら、慌てて彼女の後を追う。

「実は……まだ、家の片づけが終わってないから、もう一度国に戻らなきゃならないんだ。」

「そう。こちらにはどれくらいいられる?」

「そうだな……一週間くらいなら。」

 シルヴィは片手を伸ばし、そっとユベールと手を繋いだ。

「必ず、また戻ってきてね。」

 ユベールを見つめ、念を押すように言う。

「もちろんさ。」

 ユベールはクスッと笑い、シルヴィの手をギュッと握った。
「まるで、恋人同士みたいだな、俺達。」

「子供の頃はいつもこうして手を繋いで歩いてたでしょ。ユベールったら、すぐに迷子になっちゃうから。」

「そうだったっけ? それなら、握っててもらおうか。」

 二人は顔を見合わせて笑った。
 二人並んで通りを歩く。
 またこんな風にユベールと並んで歩けるとは、シルヴィは思ってもみなかった。
 繋ぎ合った手から、ユベールの温もりが伝わる。今まで恋人が出来たことなんて、一度もなかった。
 大人の青年とこうして手を繋いで歩くことも初めてだ。
 シルヴィの胸が小さくときめき、頬が早春に咲く桃の花の色に染まるのを感じ、シルヴィは動揺する。

──やだ、ユベールは双子の兄なのに……久しぶりに会ったものだから、何だか変な気分になっちゃったのよね。

 シルヴィは心の動揺を隠すように、ユベールに話し掛ける。

「足、どうしたの? 歩きにくそうね。」

 ユベールは、ずっと右足を引きずりながら歩いている。

「あぁ……戦争の傷跡。まだ、包帯巻いてるけど、もうすぐしたら傷は治るさ。もうすぐすれば…」

 ユベールの顔が一瞬曇る。
 ユベールは生々しい戦争を体験してきたばかりだ。
 体の傷以上に深く心の傷も負っているはずだった。
 シルヴィの胸が痛む。

「私の美味しい手料理を食べたら、きっと傷も早く治るわよ」

 シルヴィが明るい笑顔を向け、ユベールの手を握り返した時だった。


 リン…………………

鈴の音がシルヴィとユベールの耳に届いたのだ。

リン…………………

シルヴィが鈴の音の発信源がどこかを目で追って居た時だった。
突如ユベールに異変が現れたのだ。


次回の更新は来週の土曜日もしくは日曜日の予定になります。











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