「ずっと好きだったの……彼氏に……なってくれるかな?」
「いいよ」
あっさりとした答えに、一瞬耳を疑った。
十六歳の私が、十六年前から知ってる彼。お隣さんの幼なじみだから小中はもちろん、高校まで一緒の柳沢大地に告白したというのに。
「何だよ。返事したんだから、喜ぶなり何なり、フィーバーしろよ」
そんなこと言われても、答えとしては最高なのに、予想外の返答で困ってるのですが。
「えっと……大地は幼なじみでお隣さんで、フラれたら非常に気まずいことになるということを承知で告白したから……あっさりしすぎて、ちょっとビックリしてます」
フラれて私が泣いちゃっても平気なように、わざわざ私の部屋にまで呼び出したんだから。
「……まあ俺サンも、紗緒と幼なじみでお隣さんで、フったら非常に気まずいことになると思ったから承諾した……ワケじゃなくて。いわゆる両想いってヤツだ」
私のセリフを引用して返してきた。最後が違って、ちょっと嬉しい。
「って、大地、私の事が好きだったの?」
「ん。紗緒の事じゃなくて、だったじゃなくて、紗緒が好きだぞ」
ややこしい言い回しなので、意味に対して嬉しさ半減。
「……じゃあ、ラブラブでいいの?」
「いいんじゃね? 俺サンと紗緒がどうすりゃラブラブかは、解んねえけど」
ぬ。考えてなかった。告白のことばっかで、その後はまったく抜け落ちてた。
「えっと……一緒に通学したり」
「今朝も昨日も一昨日も、先週の金曜も以下略で、幼稚園レベルで一緒だが」
……そう言えば。
「一緒にお弁当食べたり」
「それは弁当になった中学から。クラス違っても一緒に食ってたような」
大地のお母さんが作る玉子焼きが美味しいのは、この時に知りました。
「じゃあ私がお弁当を作る!」
「前、そのお陰で遅刻したな。二人揃って遅刻したもんだから、かなり冷やかされたぞ」
明日からは、その冷やかしを否定しなくていいと。
「休み時間にお喋りしたり」
「それ、ツッコミを入れられなくなるくらい、うちのクラスじゃ自然な風景らしいぞ」
「それじゃあ……」
「ってか、学校限定ラブラブなのか?」
変な言い回し……ともかく、確かに、学校での話ばっかり。
「え……じゃあ二人きりでカラオケ行ったり……」
「俺サンは歌わねえよ」
そういえば、大地を含めて何人かとカラオケ行ったとき、大地は場を凍り付かせてた。
「映画行ったり」
「『女友達と恋愛映画観るの恥ずかしい』って、もう十回は言われてるが」
映画みたいな恋愛に憧れるけど、現実はそうでもないと噛みしめてる感じです。
「ボウリング行ったり」
「中学のとき行ったな。ガーターしないヤツをいまだに使ってるのは、紗緒くらいだぞ」
「う……じゃあWiiで……」
「この前、俺サンをリモコンで殴っただろ」
……軽く振るだけで遊べるようです。
「じゃあ、部屋で二人きりで話したり……」
「いままさにその状況ですが」
「……宿題一緒にやったり」
「おう。お陰で俺サンは助かってるぞ」
大地の宿題、半分以上私がやってるような……。
「ときどきお泊まり会したり」
つい言っちゃったけど、よくよく考えると……。
「そーいや、ときどき紗緒がうち来たり、俺サンが紗緒んち行ったりするな」
軽く大胆発言でしたが、お互いお泊まりを普通にしてました。家族ぐるみ万歳。
「えっと……じゃあ……」
困った。思いつかないぞ……。
「……他に?」
大地が訊いてくる。いや、考えてるから待って……。
「なんか、今まで通りでラブラブじゃね?」
そっか……そう考えると、なんかそんな気がする。
いろいろ彼氏彼女な感じのことを考えたけど、そのどれも、私たちが普通にしてること。
ってことは……。
「え、じゃあ……いろいろ覚悟して告白したけど、その前からラブラブだったってこと?」
「そんな感じだな」
なんてこと……これじゃ、覚悟した割には、新しく得たものが全然無いじゃない……。
確かに大地は彼氏になったけど……そんな『呼び方』じゃなくて、もっとこう、実際に『相手が彼氏だからこそ』の事がないと、ただ彼氏イナイ歴がストップしただけ。
「紗緒?」
大地が呼ぶけど、なんか、返事する気力がない。
「オイオイ、がっかりすることは無いだろ。どこの世界に、告白が上手く行って、がっかりするヤツがいるんだ。『ここにいる』以外の返事でよろしく」
「だって……頑張って告白したのに今まで通りって……」
「じゃあさ、目ぇ閉じてよ」
え……そのセリフ……恋愛映画では……その……。
私は、目を閉じた。何も見えない。けど、目の前にいるハズの大地を感じながら。
胸はドキドキ。
いつ来るか分からない、大地を待つ。
この待ち時間が、心地良い。
私はこういうのを期待していたのかもしれない。
今までも、周りからは恋人同士と言われたり、彼氏がいる友達からは“私たちより仲良いじゃん”と言われたり。
それでも“幼なじみ”という関係が、大きな壁となって、決定的なことには踏み込めないでいた。
その壁を壊したかったんだ。私は。
もう、私たちは“幼なじみ”じゃなくて“恋人同士”になった。
だから、こうして……。
こうして……。
あれ?
ちょっと、大地いつまで待たせるの?
なんか、全然顔が近づいてくる様子がないのですが。
薄く、目を開けてみた。
……何でケータイを向けてるんですか?
シャッタ音が鳴ったので、写メのようですが。
…………。
「何期待させんのよ!」
と、怒ったとこまで写メを撮られる。
「期待してたんだ」
「え……ほら、その……流れ的に」
「場の勢いで、体を預けちゃいけないな」
「はい、気を付けます……って何で私があやま……」
最後まで言えなかった。
途中で、口を塞がれたから。
ゆっくり、目を閉じる。
長い。
出会って十六年。
十六年分のファーストキスは、お母さんが晩ご飯を知らせるまで、ずっと続いた。
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