「恒例行事」in グラインドハウス
さてさて、ここはとある場所にある巷では結構有名な『人形寺』でございます。何が有名かと申しますと、人形寺と謳うからそりゃあ人形関連でほら、動くとか、声がするだとか、みんな大体うっすらと想像つくでしょ?
だからいちいち細かい説明はいらないよね? いやいやいや! 断じて説明が面倒くさいなどと言う手抜きではございませんよ。
さて、そんな人形寺に、毎度毎度飽きることなく夏の恒例行事と化した恐怖番組特集のネタを拾いに、TVのロケ隊とレポーターの中途半端なグラビアアイドルがやってきましたよ。
私達の暮らす部屋の外では、
「私、霊感が強いんです。何だか寒気がするぅう~」
とか、
「やだやだやだぁあっ! なんかっ! 今っ! 変な音がしませんでしたか?」 なんて胡散臭くて白々しいど下手な演技を恥ずかし気もなく披露しちゃってますよ。
いやいや、私らは別に何もしてませんから~。
しいて言うなればグラビアアイドルのポロリやパンチラ~なアクシデントを強く念じた武者人形の耕作さんのエロ邪念はガンガン出てますがね。
『今日もあのへっぽこ自称『霊能力者』は来るのかいね?』
アンティークなフランス人形のマーガレットさん(人形年齢150歳)はやれやれとため息をついた。
『あいつ、マジパネェッスよね~っ! どんだけガセばらまいて荒稼ぎしてんだか(笑)ぶっちゃけネタ提供してやってんだから、ギャラ払えよって感じッスよね~☆』
新人フラ人形のギャル子がそう毒を吐きますと、
『ふん。所詮、人間如きになど…、わらわ達の気持ちなどはわかるまい…』
悲壮感を漂わせ、日本人形のマサヨさんは朱い振り袖の袖口で涙を拭った。
『あれ? マサヨサーン、髪、また伸ビター? アイヤー、ソレニシテモ美しい黒髪ネ』
チャイナ人形のテンテンがマサヨさんの髪を褒めたらば、
『そうなのじゃ、わらわの髪はこんなに美しいのに…。それなのに、何故! 何故! あのお方はわらわをこんなカビ臭い古寺に捨てたのじゃ! 毎夜毎夜わらわのこの美しい髪であのお方の頬を愛を込めて撫でて差し上げていたのにっ!』
『ああっ! マサヨさん、興奮しちゃいけません! ほらほら、テンテンの首が折れてしまうっ!』
マサヨさんの隣でふぬぅおぉぉ~と巻き付いた黒髪にタップするテンテンを見て、博多人形のサエさんが、どう、どうっ、とまるで馬を宥めるが如くマサヨさんを鎮めました。すると、部屋の引き戸が開き、
「あぁ…、感じる。ほらすごいもう震える程の怨念よ…」
嘘っぱち霊能者と、
「ここが、常に奇怪現象が起こると言われるいわく付き人形達の部屋ですか…。何だか空気がもう怖いです」
「どうか御霊様方のご機嫌を損ねないようにお願いします…」
レポーターと住職が神妙な顔で部屋にやってきました。
『グラドルキタ━━ッ!』 耕作さんは興奮状態でパンツ~、パンツ~っと何やら激しく念じ始めました。 隣で金太郎がいやんっ! と真っ赤な前かけ一枚のみの裸体を気にしてもぞりと両腕を動かしました。
「!! …い、今、なんかあっちのほう、動きませんでし…た?」
レポーターの顔が一気に引きつります。
「感じる、もの凄い怨念を感じるわ!」
『ハァハァ…、パンツみせろぉお~っ、パンツぅぅう~っ!』
…残念でした。まあ、ある意味怨念より恐ろしい耕作さんのエロ念が今絶好調に蔓延中です。
『あっは☆あんな超ブサイクのパンツ見たらマジ目が腐るって☆つーか引っ込めマイナー女子! カモーンイケメンって感じぃ?』
ギャル子はイェーイと腰ミノを振り踊ります。
「いやっ! 今ガサッて音がしたっっ!」
「人形の悲しみを感じるわ…」
『あっは、残念っ、悲しんでなーい☆おっ! カメラ、カメラっ! イエーイ☆チョリーッス☆』
ギャル子はカメラに向かいウインクを投げました。
「うわぁああっ! い、今人形がっ! 片目閉じたっ!」
カメラさんが恐怖のあまり叫びましたらば、
「いやぁあああっ! やだやだやだっ! もうっ! 怖いよぉおっ!」
グラドルはしゃがみ込み、頭を両手で隠して泣き出してしまいました。
『ふぬぉおおおーっ! グラドルのパンツチャ━━ンスっ!!!』
『あっ、耕作さんっ! 危ないっ!!!』
どこかしら声がすると同時に、耕作さんは棚からしゃがみ込んだグラドルの正面へと落下しました。
「ぎゃぁああああああああああああああああーっ!」 グラドルは目の前に突然落下してきた武者人形に目玉をひんむいて、けたたましい悲鳴をあげて、腰を抜かしてしまいました。
『ああっ! しまった! パンツが見えぬっ!』
耕作さんが悲痛な叫びをあげると、
『ギャハハハッ! 超残念っ、耕作ちゃんっ! 首が抜けたしっ☆』
ギャル子が爆笑すると、『耕作ドンマーイ』
『ここからだとバッチリパンツ丸見えだぜい♪』
『ひゅー、ひゅーっ! ねえちゃん、ええぞーっ!』『紫とは! なんと高貴な色じゃ!』
『男子サイテーっ!』
『うるせーブスは黙れー』
『ドールといったらバナナだよねー(笑)』
『ソレ、ドール違イヤンケっ!(笑)』
下段の人形はやんややんやと騒ぎ出しました。
「人間に対する凄まじい怒りと怨念に満ちているわ! ダメよ! もう私には耐えられない! 早く部屋から出なくては危険よ!」
青ざめた顔で叫ぶ霊能者と、這うように逃げるグラドルを見つめて、最早収拾がつかないほど皆はげらげらと笑い出しました。
そんな光景を見つめて私は、やれやれと苦笑うしかありませんでした。
『ねえ、熊五郎さん、またそのうち来るかな?』と、私の隣の管女のせっちゃんがワクワクしながら尋ねました。
私は小さく笑みを浮かべてひとつ頷くだけにしました。
人間というものは、なんと暇で下らなく平和な生き物であろうかと思いながら。まぁ、私達も同様なのですがね。
主人公って一体誰やねん!




