Ω19
「零号機の援護を!!」
そんな声が通信越しに聞こえる。私に……というか零号機へと迫るアビッチの伸びてくる触手を他のアンティカ達が妨害してくれる。アビッチに再生能力はない。元々死体を集めて呪いで動いてるから、それが宿ってる死体が全てなくなれば動かなくなる。これで再生能力まで有してたら最悪だった。
けどアビッチは有限。削り続けていけばいつかは……
「くっ、自分で攻撃できないのがつらすぎる」
ゼロの今の装備ではアビッチへの対抗手段がマナ沈静化ミサイルしかない。とりあえず周囲にまき散らして触手の動きをおそくはしてる。けどこっちも動き回ってるからね。直ぐに効果範囲外に出てしまう。一緒について来てくれればいいのに。
『できますよ』
「え? 何が?」
『ですから赤いマナを機体の周囲に誘導できます』
「そういう事は早く言ってよゼロ!!」
無駄撃ち結構しちゃったよ。ついてくるのなら最初の奴だけでよかった。それにどうやらアビッチの奴も学習……してるのかはわからないが、この赤いマナを嫌がってる節がある。大回りしてこっちに来るから余裕が出来るし、援護してくれてるアンティカの皆もきっと狙いやすくなってる筈だ。
流石に私に近すぎる奴とかはこっちにも被弾の可能性があって躊躇するだろうからね。大きく回ってくれるとためらいなく攻撃できるはずだ。
「それで、どうやればいいの?」
『背後の装備を展開してください』
背後の装備ってあれか……なんか棒みたいなの。なんに使うかわからない奴だったけど、マナに干渉できるってことだろうか? 私は近くのボタンを押す。用途はわかってないが、とりあえず外部オプションのボタンは決まってるからね。第一・二・三くらいは決まってる。それ以上つけるとなると、追加で知らないボタンとか何かが後付けされるからとりあえず分からないのは第一ボタンを押しとけば間違いない。
そしてそれは正解だったようで、背中の棒が展開されたという表示がモニターに出てくる。
「エルファルボゥ?」
『詳しくは後から調べてください。私が細かく調整します』
「わかった、任せるよゼロ」
私は何が何なのかわかってないからね。ここは丸投げだ。いやーこういう時優秀なパートナーがいると助かる。それからはゼロの動きに合わせて赤いマナが常に周囲に張り付いててくれてる。
「何とか抜けれそうだね」
最初に伸びてきた腕の部分のせいで囲まれちゃってたけど、この赤いマナと皆の援護でなんとかなりそうだった。エルファルボゥも地味に効いてる。逐次ミサイルを追加投入しなくていいのは助かる。
『どうやら主砲を更につかうようですね』
「決めにかかってるって事だね」
ここに集まってる機甲師団の船全部の主砲が光輝いてる。ここにいるのは三部隊くらいだから三つの船が主砲をためてる。最初に撃った船は多分一番最後に放つんだろう。
同時に放てば威力も倍増でよさそうにおもえるけど、やりこぼしを防ぐためにも段階的に撃ってく事にしたんだろう。アビッチはしつこい。それはもうとんでもなくだ。なにせ死体の寄せ集まりだからね。一回一回確認しながら、大きく残ってる部分を削っていくのが良いと判断したんだろう。
私は触手を誘導する様に動いて本体から少しでも遠ざける。触手を伸ばしてるからか、本体の動きは鈍化してる。そもそも避ける様な奴でないし、外しようがない。私の下を光が走る。再びアビッチの胴体に命中する主砲は今度こそ、その胴体を消し炭に変えた。一番デカかった胴体は消えたが、まだ手足はある。どうなるかと思ったら、それらは積みあがる様に重なってなんか変な物体になり果ててる。
まあけど、バラバラに動き出すとかじゃなかっただけましだろう。更にもう一回主砲が光る。既に私の周りには触手はない。多分、こっちに回す余力がなくなったんだろ。私は更にミサイルを追加して少しでもアビッチが弱る様に援護する。
蛇の様な動きで地面を這ってるアビッチに主砲が当たる。胴体の四角ブロックが一番多きかったから他の三格や丸、円柱は一度の攻撃で吹き飛んでいく。これならもう、何が出来る訳でもないだろう。後は止めを刺すだけ。
そして最初に主砲を撃った船が再びエネルギーを再重鎮して最後の一撃を放つ。その時だ。アビッチが悪あがきをしたのは。ここは戦場で、戦場では最後まで何が起きるかわからない。油断した奴から死んでいく。アビッチは一番後方にくっついてた丸いブロックを体をくねらせる事で投げ放った。それが飛んでくる。
いや、既にそこにある。私はただ、それを見つめてた。