Ω17
爆炎がアビッチを包む。やったか? 私たちは固唾を飲んでそれが晴れるのを待った。すると煙が晴れる前に中から煙を突き抜けて奴の不気味な三角のブロックが飛んできた。
「散会!!」
そんな指示が飛ぶ。私は十分な距離をとってたらから動く必要はなかった。ある程度までアンティカに近づいたアビッチのブロックはいきなり爆散してその不気味な中身を飛び散らせる。あれに触れる訳にはいかない。なぜならあれは……呪いだからだ。
アビッチの原料は命を落とした生命の死骸。それにはいろんな思いが怨念として渦巻いてる。それらを原動力として、更に増幅させて支配して使ってる悪趣味な兵器がアビッチなんだ。アビッチは死と呪いをまき散らす最悪の兵器といっていい。
向こうがたからすれば、効率よく敵を死に追いやれる都合のいい物なんだろうが、使われる側からしたらたまったものじゃない。あの飛び散った様々な肉片とか部位とか、それこそ体液にしても、触れたらそれだけで強力な呪いに侵される。
浴びすぎるとそのまま昇天だ。しかもあれは別に攻撃対象にしかそれ力を発揮しない訳じゃない。アビッチが触れた物は全てがその対象だ。だからだろう……アビッチの通った後には命がない。草も木も地面さえもどす黒く腐り果ててる。
流石に機甲師団でアビッチの呪いに捕まる様な奴はいなかった。まあ一応私が撃ったミサイルも効いてるみたい。元々そんな早くもない速度だしね。ただアビッチは何をしてくるか分からない怖さがある。意外性がある所は私と並ぶところがあるかもしれない。嬉しくないけど。
「さすがにアレに近づくのはやばいよね」
『そうですね。そこは判断できるのですね』
「私だって死にたい訳じゃないからね」
アビッチに今の私の装備では対抗策が殆どない。あいつは真っ直ぐ進むか、止まるかしかない。多分アレを作った奴らも複雑な事をさせる事をさせる事は出来なかったんだろう。一応自動防衛的な事はするが、進路を違える事はない。奴らは真っ直ぐ、ただその目的地に向かって進む。
どんな攻撃を受けてもすすむからね。そして進んだ分、その土地を枯れさせる。こちらにはクリスウッドがあるから土地の回復は速い。けど、早いからといって許す事が出来る訳じゃない。アビッチを倒すにはアレが動けないくらいに切り崩していくかない。それには火力が必要だ。
奴に近接戦はご法度だ。奴の体に触れた武器はもれなく呪われるからね。
「有効な武器がないんだけど!?」
『こんな戦闘は想定してませんし、私はサポート機です』
「ミサイル撃つしかないって事?」
『有効ではありますが、決定的ではないですね。それに表面では効果も限定的でしょう。この装備もまだ実験段階ですし、どの程度の効果があるのかデータをもっと取りたいところです』
「それって何? あいつの体内にでもぶち込めばいいの?」
『できればいいデータになるかもしれません』
ゼロも無茶を言う。アンティカの銃を照射し続けても、表面を削り取っていくくらいしかできないのに、内部に叩き込むなんて……そんな大出力の攻撃は船くらいから出来ない。まあアビッチが出てきたのなら、やってくれるだろうけど……それにあわせて接近して……
(いけるか? ゼロの機動力ならなんとか?)
けどリスクがかなり高い。 何せ飛び散った破片ちびっとしたのにあたるだけで呪われるんだ。そしてその死に様は直視できないくらいに悲惨だ。
『彼らの船が主砲を展開してる様ですよ』
後方に控えてる見慣れた船が確かに前方を開いて主砲を展開してる。主砲はエネルギーを大量に消費するからそう何度も撃てる代物じゃない。やるなら、この攻撃にタイミングを合わせてるしかない。
『私が全てを見ましょう。破片の一つも見落としません』
「そうね、ゼロならそのくらいやれる……か。そして私は英雄。何も問題ないわね!」
私は決めた。やる! やってやろうじゃない!!