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√95

(苦しい……)


 ラーゼから送られてくるマナの総量にこの魔王の体が悲鳴を上げている。それは久しく感じた事のない感覚だった。魔王と一つになった私はそれこそ大切に育てられたし、そもそも魔王というのは強いから魔王になるんじゃない。

 生まれた時から魔王なのだ。どうして人種がこんなに脆弱なのか……何度も思った。そしてどうして他の種はあんなに恵まれてるのか……でも魔王として二度目の生を受けて納得した。その差が種なのだと。まあ魔王という種はいないけど、魔王となった私は強かった。


 それこそ何不自由ないくらいにだ。壁を殴れば壁が吹っ飛ぶ。これが人種なら逆に自身の拳が悲鳴を上げる所だ。でも魔王になった私の拳は岩よりも固い。いや、岩なんか片手で握り潰せるから逆に魔王となったら岩なんて泥と変わりはしない。


 それは魔族を相手にしても同じだった。私は肉体的には最強で上位種にも勝るとも劣らない歴代でも最高の魔王らしい。どうしてそんな事がわかるのか……それは魔族は人種よりも圧倒的に寿命が長いから、数百、数千くらいなら普通に生きてる人がいるのだ。


 それに私は特殊だった。普通は魔王は世界樹と共に生まれ成長する。でも私はこの地に再誕した時には赤子ではなく、既に数十の時を経てた。そしてラーゼがクリスタルウッドと呼ぶ世界樹を世界に巡らせたとき、私は更に成長をして今のこの姿になった。


 それからはもう敵なし状態だった。大抵相手は指先一つで消し飛ぶ程である。けどまだ私は完全ではないらしい。それは世界樹がないからだ。世界樹と魔王は一心同体。魔王にはもともと世界のマナを受け入れる素体で出来てる。


 だからやれると思った。こんなに苦しいなんて……苦しいなんて事をこの体で再び感じるなんて……そんな時、優しく肩に触れる手。視線を向けるとお兄様がいた。ずっと会いたかった。本当はこの地に再誕した時、速攻で会いに行きたかった。


 けどそれは許されなかった。私は魔王だから。力尽くなら誰も止められなかっただろうが、いかに私が必要か説かれたらね。そんなお兄様にようやく会えた。だからこそこんな所で死ぬわけにはいかない。全ての役目が終われば、私は魔王から解放される。


 それは魔王との契約みたいなもの。だから私はこの道を……魔王の道を止める事は出来ない。けどすべてが終われば、私は私の本当の居場所に行くことが出来る。だから負けない。私は歯を食いしばる。これまでの魔王は覇道の道半ばで散っていった。


 だけど、私はそうはならない。なにせ完成した世界樹は既に存在し、そして世界は戦いへと押し入ってる。全ての条件はどの魔王の時よりもいい。だから……私は――


「負け……ない!」


 私は今まで受け入れるだけにとどめてたけど、一気に招き入れる様に力を取り込む。それはヤバそうだからやめてたけど、じわじわとラーゼになぶられてる様なのは我慢ならなかった。だって気づいたから。お兄様がラーゼを見る目は特別。


 けど、そんなの妹の私が許しません!! こんな性格悪い女に大切なお兄様は任せられない。たった一人の家族である私がお兄様を悪女から守らなくてどうするのか!!


 そんな事を思ったら、なんだかいきなり何かがカチリと嵌った気がした。そして今まで苦痛だったマナが自然と受け入れられる。


「そん……な」

「どうやら、我の勝ちのようだなラーゼ」


 私はそういってラーゼに笑顔を向けた。

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