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兄が来たことで面に皮を被った魔王ミリア。カタヤの事はなかなかのシスコンだとは思ってたが、どうやらミリアもなかなかのブラコンだったらしい。さっきまでの魔王然とした雰囲気は完全になりを潜めてる。けどいくら取り付くろっても今のミリアは魔王であって、ファイラルに来賓として来てる魔族の王。
合法的に常識の範囲内で意地悪をしてあげよう。
「カタヤ、その人は来賓よ。立場を弁えなさい」
「だが、ミリアは……」
「それは魔王でしょ?」
「うふふラーゼ様、私は構いませんよ?」
ミリアの奴が笑顔でそういってくる。それはそれはいい笑顔だ。けど同じ女だからわかる。これは脅してますね。今のミリアの声を訳すならこうだ。
『は? 余計な事言うな』
間違いない。けどその程度で引く私じゃない。もっと私を楽しませない。
「あらあら、なら私は魔王様と呼ぶわけにはいかないのかもしれないですね。ミリア……と呼んでいいのかしら?」
私は頬に手をあててあらあら感を強くだす。その私の言葉にミリアは眉をぴくっと動かしたのを私は見逃さないよ。困るんでしょう? 大好きなお兄ちゃんの前では可愛い、変わらないミリアでいたいんでしょうけど、そんな事を私が許すとでも。いじり倒してあげようじゃない。
「ミリア、ちゃんとわかってるから。お前が変わろうと僕たちは家族だ」
「お兄様」
ミリアの肩に置いたカタヤの手にミリアが手を重ねてその温かさを確かめる様に目を閉じてる。なにその兄弟愛みたいなの? そういうのが見たいんじゃない。
「私は魔王。魔王ミリア……だ」
あ、葛藤の末に魔王らしさを出すことにしたらしい。カタヤがどんなミリアも受け入れるといったから妹顔だけじゃないのも晒す気になったみたい。ふむ……
「なら魔王ミリア、ハッキリ言うけど私はクリスタルウッドを手放す気はない。諦めて」
私はハッキリと言ってやった。こいつにとっては世界樹はとっても大事。私が諦めないのなら、方法は一つ。戦って奪うとかになるとう。それが魔族らしいしね。けど流石に兄の前でそれが出来るのかな? 人種への宣戦布告。実際は既に人種と魔族は戦争してるみたいなものだが、王側が洗脳されてるから表立ってないだけ。
私たちファイラルが悪者みたいにされてる。けど私たちは魔族の王のミリアを来賓として保護してる形だ。それはミリアからの要請。ここで事を構えると、それはそれはおかしい事が露呈しちゃうよ。魔族達だって人種の全てを洗脳してるわけじゃなく、一番の決定権を持つ王政の中心達を洗脳してるだけだろうし、他の領をこちらにつかせることはそんな難しいことはない。
最悪、もう私は女王になる事も覚悟も決めてるよ。今の王には人種を売った裏切りものとして最後を迎えてもらうのが一番簡単だよね。それでまた人種の新たな結束の礎になれれば、王族としても本望じゃないかな?
「それは出来ない。世界樹は魔王にとって必要不可欠だ」
「なら、どうするの?」
その強力な力を行使する? と目で訴える。ミリアの視線は隣に立つカタヤへと向く。いくら魔王の振りをしても今は完璧には魔王になりきれてないミリア。このままカタヤを使えばもしかして結構いい条件をひねり出せるんじゃないだろうか?
初めて役に立ったんじゃない? まあ結果次第だけど、これはそろそろカタヤにもご褒美あげてもいいかもね。