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好きな人と年賀状のやり取りができますように

作者:茅野真奈
 松平君から年賀状が届いた。

 筆で「あけましておめでとうございます」と書かれ、朱色で干支のスタンプが押され、黒のペンで「体育祭で椎名さんがめちゃくちゃ足速いの知って驚いた。今年もよろしく!」ってコメントが書かれている。宛名も全部オール手書きだ。すごい。というか、あんまり話をしたことのない私にもちゃんとしたコメントあるし、一人ひとり違うこと書いているのかな? 足速いとか、とりあえずがんばって特徴とか接点を考えた結果思い出した感がするよ。
 ちなみに松平君の年賀状は、仲がいいからくれたってわけじゃない。なんでも親が郵便局に勤めているらしい彼は、幼い頃から年賀状を出す習慣があるらしく、十一月の半ばにクラスみんなに「嫌じゃない人は住所教えて。年賀状出すから」と聞きまわっていた。
 その結果、我がクラスは男女関係なく年賀状ブームが到来。毎年祖父母にしか年賀状を出さなかった私も、クラスの人に担任や教科担当の先生、部活の人や顧問と、初めて四十人近い人数に年賀状を出したよ。ただ、松平君と違って印刷だけど。宛名面もデータ入力して印刷。手書きコメントは、仲のいい一部の子にしか書いてない。三分の二はオール印刷。うーん、せめて「今年もよろしくお願いします」くらいは全部に手書きするべきだったなと反省。
 で、ブームによりクラスメイトからたくさん年賀状が届いている。その中でも一番の注目は、ブームの根源たる松平君の年賀状だったから、まず探した。そしたらオール手書き。今までもクラスメイトに住所とかを聞いてきたなら、枚数だってすごいことになっているだろうに手書き。本当にすごい。

 松平君以外の年賀状も見てみたら、宛名だけは手書きも多いけど基本は印刷。そりゃあそうだ。でも素敵なデザインの多いなぁ。
 松平君みたいにオール手書きもちらほらある。斎藤さんは宛名も全部筆でインパクトある。そういえば書道部だったな。全部ボールペンでおみくじシール付きなのは奥山君か。見た目も声も大きくてちょっと苦手なんだけど、字はとてもきれいだ。全部ボールペンってところが面倒くさがり屋なのかマメなのか判断に迷うけど、その飾らなさと字のきれいさがなんかいい感じ。というかおみくじシール大吉だよやった。
 既定の年賀状じゃなくて特殊紙に印刷したのもあった。花ちゃんからのだ。これ桃はだ? ひつじ年だから桃はだかぁ。ふかふか。切手はちゃんと年賀切手とか、花ちゃんわかってる。おお、笹山先輩も特殊紙だ。これなんだろ……ってか活版印刷だ! ってことはこの紙は特Aクッションとかそのあたりの紙かな。憧れる。
 あ、阿原さんの年賀状は印刷だけど、自分で描いたイラストっぽい。ひつじかわいい。
 みんなすごいなー。既存のデザインをそのまま印刷した私って、あきらかに手抜きだね。まぁ今まで祖父母に出していただけだし、ちゃんとしただけでも進歩だからいいか。来年はがんばろう。

 それにしても、もったいないなぁ。好きな人とかがいれば、年賀状ブームってものすっごいチャンスだったのに。実際、クラスの女子が好きな男子と年賀状交換するためにがんばって住所聞いている姿を見た。うらやましいなって思ったけど、好きな人がいないんじゃどうしようもない。
 私だって花の女子高生。ときめきたいよ。でも好きな人って、作ろうと思って作れるもんでもないしなー。まぁまだまだ高校一年生。二年になったらクラス替えもあるし、出会いがあってもおかしくない。未来に期待する。
 それかさ、もしかしたらこの年賀状の中に私のこと好きな男子がいるかもじゃない? ドキドキしながら、チャンスとばかりに住所を聞いてきた男子がいると妄想したらにやけちゃう。
 もしそういう男子がいたら、オール印刷じゃなくて手書きの部分はきっとあるはず。ボールペンだけど、全部手書きの奥山君とか? ……いや、確か彼女がいたはずだから違う。コメントや宛名が手書きの男子はけっこういるけどなぁ。コメントはだいたい「今年もよろしく」や「良い一年となりますように」だし、松平くんみたいに完全に個人にあてた文章とかってないに等しい。
 じゃあ、特別感ある笹山先輩の活版印刷年賀状とか。でも活版印刷はまとめて数十枚印刷頼むだろうし、私が特別ってわけじゃないよね。というか年賀状ブームはあくまで私のクラスの話で、部の先輩達にも年賀状を出そうと思って住所を聞きまわったのは私だからきっと違う。
 うーん、やっぱ私のことを好きな男子がいるかも妄想は、妄想でしかなさそうだ。残念。ぶっちゃけ、クラスの子の住所とかって、誰に自分から聞いて、誰から聞かれたかとかいちいち覚えてない。特別思い入れもなく、ただ単純にこのブームを楽しんだだけだ。特定の誰かの住所をゲットしようと考えていたならちゃんと覚えてただろうな。ああ本当にもったいない。

 その後しばらく、ちょっとでも私に気があるような年賀状はないかと往生際悪く探していたけど、どう見てもなさそうだった。
 さすがに虚しくなって、出してない人から来たものを抜き出して追加で年賀状を印刷する。休み時間に複数人にバーッと教えた中に、教えたけど聞き忘れたなり控え忘れた人がいたんだろうね。他の人と違う年賀状にするのもなんだし、今年は手抜きといわれても既存デザインでオール印刷だ。うん。
 印刷が終われば、コートとマフラーを装備して初詣と追加年賀状の投函のために外に出る。花の高校生が一人で初詣って悲しいけど、仲のいい友達は家族と過ごすか彼氏と過ごすかだから仕方がない。弟には振られた。姉ちゃんと行くくらいなら一人で行くって言われた。お年頃だね。

 ポケットに入れた年賀状を投函してから、地元の小さな神社に向かった。
 毎年、ここの神社への初詣は欠かさない。やっぱり地元は大事だよ。というか、初詣はしたいけど新年早々激混みに突入するのは嫌だからっていうのもあるけどね。地元が参拝客多い神社だったら別のところに行っていたかもしれない。
 それはそうと、今年は何をお願いしようかな。去年は受験生だったから合格祈願したんだよね。あ、無事合格したのにお礼してないな。お礼はしよう。でもお願い事だってしたい。初詣にしか行かないくせにずうずうしいかもだけど、せっかくだし。
 成績が上がりますように? 別にそこまで成績悪くないから、お願いするほどじゃない。クラス替えで仲のいい子と同じクラスになれますように? ああそれは大事だね。でも、どうせなら恋愛関係でのお願いがいいな。じゃあクラス替えで素敵な男子と同じクラスになれますように? うーん、なんか違う。素敵な恋ができますように? 妥当かもしれないけど、しっくりこない。
 ……来年は、好きな人と年賀状のやり取りができますようにとかは? うん、いいかも。好きな人ができて、かつ年賀状のやり取りというときめきもゲットできるお願い事。そりゃあお願いしたってそれが必ず叶うというわけじゃないってわかってるよ。でも、初詣のお願い事って、今年の目標みたいなもんじゃない? 年賀状のやり取りは来年でも、それは今年好きな人ができて、かつ住所交換をするハードルをクリアするってことなんだから、今年の目標はこれでおかしくないはずだ。
 好きな人は作ろうと思って作れるもんじゃないにしても、ドキッとしたりキュンとしたりしたことをスルーせず、日常の中に転がってるかもしれない恋のきっかけを見つけよう意識するだけで何かが変わるかもしれないし。

 願い事も決まったところで、地元の神社にたどり着いた。家から徒歩十分。程よい距離だ。
 住宅街のちょっと奥まったところでひっそりした神社だけど、元旦の今日はさすがに人がいた。私みたいに初詣の時だけ来るっていう近所の人が多いんだろな。
 ちょっとだけ並んだけど、すぐに順番が来てお賽銭をしてから手を合わせる。さっき決めたとおりに、高校に無事合格したお礼をしてから、「来年は好きな人と年賀状のやり取りができますように」とお願いした。ねぇねぇ神様。好きな人ができるかは私次第だとしても、応援くらいはしてね?

 あ、でも年賀状のやり取りをするためには、今回みたいな年賀状ブームがクラスで起きないと難しいかもしれないから、松平君と同じクラスになってまたブーム起きますようにという願い事も、慌てて追加した。
恋のきっかけ、そこに転がってるよお嬢さん!
あと桃はだって特殊紙かわいいよ。

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