#8二者択一
「帰りに、岡山城行かね?」
駅のロータリーの所で、あたし達は、おやつの時間と称し、途中駄菓子屋さんで買った、お菓子を袋から取り出した。
あたしのは、もう溶けてしまって、ただのジュースになってしまってたけど、延光よりかまだマシ。延光のは、食べることが出来る状態じゃなくて、カップの中でレモン色の水がチャポンチャポンと鳴っている。仕方ないので、一回家に戻ってから、冷凍庫で冷やし直し。だから、隆のガムを二個ほど貰って食べていた。
そんな時思い付いたらしい、延光の発言。
「岡山城?」
あたしは、素っ頓狂な声を上げてしまった。
お城なんて見て面白いんだろうか?が本音だった。
「隆、どう?」
「うん。ボクは別に構わないよ?今日は特別用事も無いことだし」
無表情にそう言った。
「葵っち、岡山は初めてなんじゃないの?良い所やで此処は!歴史に触れて見るのも一興やと思う!オレ、詳しいんやで?岡山城は!」
そう言って、ツラツラと、歴史を語りだした。あたしは、それをふんふんと聴いてみた。
どうやら、岡山城は別名、烏城。金烏城。というらしい。時代は南北朝時代からその城は有ったとされているらしく、歴史深い。その時の当主は神高直で、その後、戦国時代に金光氏が居城としたらしい。その後また城主が変わり、宇喜多直家がなったとか。
お城も、名古屋の白鷺城と比べられるらしく、漆黒の板張りで有名で、今年、国にも認められて、日本百名城に選定されたとか。
聴いてると、色々有るみたいだけど、行って見ないと良く判らないと思った。
「のぶちゃん?そんな説明より、行って見てみるのが一番だと思うよ?」
隆は、小難しい事より、まず見ることを勧めた。うん。あたしもその方が良い。
細々としたことをまだ言うつもりだった延光だったけど、二人の意見ももっともだと感じたらしく、直ぐにこの場を離れて、岡山城へと自転車で向かったのである。
岡山城は、平地より少し高い所にあった。そして、思ったより小さかった。
でも、あたしは、この場所に相応しいお城だなと思った。白鷺城のように白を基調とした、綺麗なイメージは無いけれど、こう言ったお城もまた良いなと思う。
本丸の金の鯱には驚いたけどね。名古屋の物よりは立派じゃ無いらしいけど、これが有るのとないのとでは、格式はまた違ってくるのではなかろうか?そんな事を考えてあたしは、延光と隆の二人と一緒に色々と見て回った。
こういう時間って今まで取った事が無くて、ちょっとした、歴史に触れてロマンという物があたしの心に広がった。
岡山は最高だよ!此処の土地を愛した人達の心が時代を重ねて有るのだと思った。
あたし達が、岡山城を見て回って、帰宅したのは、夕飯時刻くらいで、丁度良い時間帯だった。
夕飯は、カレーライスだった。鶏肉のカレーライスというのは初めて食べたけど、牛肉とは違って、あっさりしてて、肉の厚みもあり、あたしはこれも有りだなと思った。
そして、今日もまた、延光が四国巡りの話を延々としていた。隆はまたもや無視を決めきってしまってるけど、あたしは逆に聞き入っていた。どうして、そんなに四国巡りに拘るのか?それが気になって仕方が無かったからだった。
「はいはい。延光?その話は、隆とゆっくりなさい。今は、もっと違う話をして下さいね
?」
終におばさんは、微笑んで嗜めた。
あたしは聞きたい事が沢山ある。もしかすると、あたしもその旅行に参加したい気分に襲われ始めていたからかも知れないな〜と今は思う。そう、この時は、この二人に便乗して四国に行く事になるとは思ってもいなかったけれど……
夕飯後に、延光は隆と居間でゆっくりこれからの話を始めた。
あたしも何故かそれに加わることになる。優香ちゃん達と遊ぶのも楽しいんだけど、延光達と話してる方が、歳が近い分何だか落ち着くからかも知れない。
「んじゃ、取り敢えず、高松までは電車に乗って行くってのはどうや?」
延光は、心に描いてる旅行という物があるらしい。で、隆といえば、
「高松までって、その後はどうするつもり?
四国は香川県、愛媛県、高知、徳島ってあるんだけど?」
あたしは、四国の名前を全部言えるかというと、言えない訳で……この二人の会話に出てきた県名を覚えるのが精一杯だった。
「そんな所まで考えてないわ!とにかく回りたいんや。絶対に!」
「はいはい。のぶちゃんの気持ちは判った。でも、お小遣いが決められてるでしょ?それに見合う旅行を考えなくちゃ?」
隆は、行き当たりばったりの旅行はNGだと言っている。計算できない事はしないタイプらしい。実に堅実的である。
「んじゃ、お金なくても、ヒッチハイクすれば良いじゃん?」
うわっと、凄い発言……
「却下!お母さんにどう説明するつもり?納得してくれる訳が無いでしょ?全く、のぶちゃんは、『当たって砕けろ精神』なんだから……」
あ、それは隆の言ってることが正しい。ヒッチハイクなんてそんな事して上手く行く訳がない。あたしは、隆の良識に相槌を打つように聴いていた。
「そうか〜?良いやん。バレなきゃ……それに、オレ達は子供なんや。そんなコトで上手く行かない旅行って何や?」
でも、延光は引くことが無かった。頑固者だ。あたしは苦笑いしてしまった。
「あ、今笑ったな!んじゃ、葵っちはどうすれば良いと思うんや?」
「お小遣いでいける所を考えたら良いじゃん?延光って無鉄砲すぎるよ〜」
あたしは、自分の事を棚に上げてそう言った。あたしは今、無一文……なんですけどね?
「んじゃ、葵っちも一緒にくれば良いやろう?お手並みってのを拝見してみたいね〜!」
それには承服しかねた。だって、あたしは無一文。そして、ご厄介の身の上ですが?
「あたしは、無理。無一文ですから〜」
何ておどけてはぐらかそうとした。が、延光は許してくれそうも無く、
「隆?旅費はお前の方はどうや?」
まさか、隆?またお金を出そうなんて言わないよね?あたしは引き攣ってる顔を戻す事が出来なかった。
「う〜ん。何とかなると思うけど?」
おい!男二人と少女の図ってやばいんでないかい!突っ込みを入れようとした時、おばさんが、居間にやって来てあたし達の会話に加わった。
「あら、旅行に葵ちゃんも行きたい?なら、こちらで出すことが出来ますよ?優香達の旅行も有るから、どちらに参加するか?考えてみて。この家を少しの間空けないといけませんしね?」
と、それだけ言って、微笑んで去っていった。これには閉口してしまった。だって、一人この家で留守番なんて出来ないじゃないですか?
ということで、あたしは、どちらか一つの選択に迫られたわけである。
「どうするの?葵ちゃん?」
寝る時、亜希子さんが真っ暗なこの部屋で問いかけてきた。でも、あたしはその答えを出せずにいる。
「悩んでるの?どうしたいかは、自分で決めることなのだから、こういう時悩んでおくのも良いわ。優香ちゃん達と、先生と、私と一緒に来るか?それとも、延光君、隆君と一緒に行くか?二つに一つ。二者択一なのはまだ良い方よ?色んな道を模索するより、限られている道を選ぶのはまだ簡単」
その言葉に、確かにそうなんだけど……
まず、優香ちゃん達と一緒に行くとする。小さい子達と話を合わせられるほど、あたしは子供慣れしていない。でも、亜希子さんや、おばさんが一緒なら大丈夫かなとも思える。で、延光達の場合、男二人に女のあたし一人。と言う形になる訳で……確かに優香ちゃん達よりは話は合うだろう。がしかし、この歳の女の子が、男の子と一緒に旅行なんて考えられない。修学旅行だって、女の子は男子と一緒の班になるなんて事はありえないし……言うなれば、どちらも何かが引っ掛かるわけである。
でも、どちらかを選ばなければ、あたしは一人此処でお留守番。そんな大役なんてあたしには無理。
だから、どちらかを選ぶことに自動的になるのだ。
でも選べない。何故だろう?
「あの、亜希子さん達は、いつから旅行に出るんですか?」
そう、期間を訊いてなかった。その事にハッと気が付き問いかけた。
「月曜からよ。だから、明後日からって事になるわね?」
明後日から?そんな……考える時間がもっと有ると思ってた。なのに、一日?
「どのくらいの期間、旅行する予定なんです?」
そう。期間も大事。
「そうね。二週間くらいかしら?その辺りは先生が取り仕切ってるの。わたしもハッキリしたこと聴いてなかったりね」
「そうですか……」
あたしはちょっと頭を抱えてしまう状況である事にやっと気が付いた。
「ねえ。今の自分に、どちらが必要か?考えてみたらどうかしら?葵ちゃん。悩んでるんでしょう?」
「え?」
それは勿論、悩んでますが……
「時間と言う物はね。一定方向に時間軸を作っていて、決して平行線を歩く事は出来ない物なのよ。で、後になって気が付くんだけど、あの時こうしてれば良かった〜なんて事が沢山出てきてね?」
「はい……」
「よくよく考えてみると、必要だったのは、あっちだったって事がよく有る訳なのよ」
「はい……」
「それだけ……」
オチはそれだけ?何て思ってると、隣の布団から寝息が聴こえて来た。
亜希子さんの言いたい事。それを考えた。今日は眠れそうにない。あたしにとって後々大事になってくる事。それは、どちらだろうか?
あたしは、一人旅をしたくて此処まで来た訳である。それなのに、お金を盗まれて、旅行が出来ない。あたしは何故一人旅をしたのだろうか?その論点がずれてしまったら、意味が無いのだ。
あたしは、人との繋がりを絶ちたかった。そう言う場所に訪れて、一人自分と向き合いたかった。でも、自分はその事態に陥って、他人を求めた。そう。その原点が、延光だった。
そこまで考えて、一人が三人になってもおかしくは無い。よね?男とか女とか……そう言うことを考えてしまったら、人間と言う物がわからなくなってしまう訳で……
だから、あたしが選ぶべきは、延光達ではなかろうかと思う。人間として、向き合うべき場所がそこに有るのではなかろうか?
と言う決断があやふやながら出来上がったような気がする。その時ふと眠気が襲った。寝ても大丈夫な気がした。安心して眠れる気がしたのである。
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