#1プロローグ
―人の世の 名残惜しくは 繋がりを 無くして今も 誰ぞありなん―
美空 葵 作
今日から新たなる旅立ちの道を歩むつもりだ。誰も知らない場所に、誰もあたしの事を気にも留めない場所に。あたしを、人として認識しない場所に。
産まれてこの方、人との繋がりに稀薄だった事を何度となく突きつけられる場面があった。そりゃ、繋がりを絶つつもりなんて無いけど、自分に合った人間を探すくらいなら、この世をおさらばしたい気分に駆られることの方が多い。
たった一度だけを除いては。
例えば、同じ趣味の子と仲良くなる。音楽の話なら、その曲や、歌詞、アーティストの話。そういうお話をしてて、そりゃ楽しいね。何時までもこんな話で盛り上がりたくなる。そして笑っていたいし、ふざけあいたい。
でも、気付くんだよ。この人達は、やはり自分とは死を直前にする時まで何時までも一緒にいられない人間なんだって事に。小学生の時に痛いほど悟った。
そして気がつくと、往来の真ん中でも、教室の中心にいても、ポツンとただ突っ立って傍観視している気分で、この世に自分の存在が在るのか無いのか?判らなくなる。
それがとても歪で、無味無臭の空気の様な者である気がして、そこで息が詰まる。
言うなれば、ただの生きる屍。生かされてるだけの存在に感じられてしまうわけ。
だから、あたしが生きてる証を探しに旅に出ることにした。
十四歳。季節は中二の夏休み。性別女。名前は葵。美空葵。この夏、自分の価値を探しに旅立ちます!
旅の始まりに、あたしは一つの大きな鞄を手に取った。去年、警視庁で働く立派な、誰にでも自慢したくなる父に買って貰った、中学生になったお祝いの鞄。あたしの自慢の愛用品。大きいから、旅行鞄としても役に立つのが売りだったりする。
あたしはそれに必要な衣類や、非常食、旅行に必要な石鹸、歯ブラシなどを詰め込んだ。
こうしてみると、愛用品の鞄が、子熊のように丸々として見えるから不思議。そして、あたしは、必要な金品と、中学生になってお母さんから渡されている貯金通帳とカードをショルダーバックに詰め込んだ。これが無いと、旅行をしようにもできない。とあたしは思っていた。
この世の中、お金が無ければ渡り歩くことが出来ないと、自ずと知っている。ああ、こういう所、割り切りの仕方が中学生らしくなくて、夢も希望も無い人生を歩んでる気がするな。でも、それが現実なの。だからこの旅行に必要な物の一番はお金。手持ちは、五千円。通帳には残高二十万円がある。これだけあれば、何とか一ヶ月過ごせるだろう?
あたしは、素で勝手にそう思い込んでいた。
誰にも居場所を知らせず、行き当たりばったりの新たなる旅立ち。
きっと、お父さんや、お母さんは捜索の手を広げてくるだろう。でも、そんな事は関係ないや。旅が終わって帰ってきて叱られても、ニュースで取り立たされても、あたしはこの旅が、今、必要なのだ。
親不孝者でごめんなさい。でも、今やらなくちゃならないんだって自分でそう考えたの。真剣に。
そう思いつつあたしは、皆が寝静まったこの白い満月の夜空に煌く星々を眺めつつ、何不自由ないこの一戸建ての白い花が咲き乱れるガーデニングの整った家を後にした。
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