おっさんドラゴンは毎回死ぬのが金になる
短編集『死と生の廻転輪舞曲』シリーズ第二弾
無限に広がる闇の中、
扉がただひとつだけあり、
他には何もない空間。
ドラゴンが扉を開けると、
まるで大岩のような
屈強な肉体をした老人がいる。
「ドラゴンちゃん、
今回もお疲れちゃ~ん」
「いやぁ、今回もよかったよ~
あの新しい断末魔、もう最高だったじゃない!」
「あれは自分でも
ちょっと工夫して変えてみたんで、
そう言ってもらえると嬉しいですわ」
白髪で白い髭を蓄えているその老人は、
『ゼウス』と名乗っていた。
だがあのゼウス神とは関係がない。
転生者が状況を理解しやすいように、
彼ら転生エージェントは、
みんなゼウスと呼称されていた。
「早速で悪いんだけどさぁ、
次の現場なんだけどね~」
ゼウスは手帳を取り出すと、
次の仕事の話をし出す。
「ちょっとワシ
今現場終わったばっかりっすよ」
「最近、異世界転生モノ
流行ってるからね~
勇者も多過ぎて、
敵役集めるのも大変なのよ」
「いやぁしかし
ホンマ、異世界転生して来る勇者
多過ぎですわ」
「いいじゃないの~
それだけ仕事あるってことだから」
ドラゴンは
異世界転生モノのやられ役として、
いろいろな異世界に転生を繰り返していた。
「最近人手不足で、
やられ役のギャラも上がって来てるからさぁ」
「ご家族への仕送りも増えていいんじゃない?」
「ご家族喜んでたよ~
お父さん頑張ってくれるから、
生活が楽になって、
本当に助かるって」
「ちゃんとギャラは
ご家族の元に届けておくからさ、ね」
ドラゴンは勇者のやられ役として
稼いだ報酬を、
自分が本来いた元の世界、
そこに残して来た家族のために、
ずっと送金し続けていた。
いわゆる出稼ぎに来ているようなものだ。
「ホンマですか…
ならワシやりますわ、
あいつらが少しでも
楽な暮らし出来るんなら」
ドラゴンは今の仕事で
十分な金を稼いだら、
ゼウスに頼んで、
元の世界に転生させてもらって
再び自分の家族と一緒に
暮らすことを夢見ている。
-
次の転生の現場では、
やたらと時間が掛かった。
いつまで待っても、
勇者のパーティーが
一向に現場に来ないのだ。
散々待たされて、
ようやく到着した勇者一行に
文句のひとつも言ってやる。
「自分ら、ここまで来るのに
どんだけ時間かっかってんねん!」
「寄り道しし過ぎやで!自分ら」
「こっちは現場回してなんぼなんだから、
しっかりしてもらわんと困るで、ホンマ」
ドラゴンの剣幕に、
勇者は頭を掻きながら言い訳する。
「すいません、
自分レベル上げるのに時間かかってまして、
自分、先にカンストしてから進めるタイプなんで」
「カンストかいな、
ほなしゃぁないかもしれんけどもや」
「自分もまた随分とけったいな性格やな~
しかし周りの人の迷惑も考えんとあかんで、ホンマ」
「すいません、これから気をつけますんで」
勇者は頭を掻きながらドラゴンに謝った。
「ほな、やろか。
自分カンストやったら
武器なしでも、いけるんちゃう?」
「そんだけ強いんだから、
痛くないように一瞬で頼むでぇ~」
「ちゃちゃと頼むで、ホンマ」
-
次の現場では、
勇者が弱すぎた。
レベルもろくに上がっていない、
装備も貧弱な、
到底自分を倒せそうにもない
勇者一行だった。
ドラゴンは勇者をどやしつける。
「自分らホンマあかんで、しかし
ワシのこと中ボスだと
思って舐めとんのと違うか?」
「い、いや
決してそんなことないっす」
怒られた勇者は慌てふためている。
「そもそも、こんなんで
舐めてないと思ってること自体が、
ワシを舐めてるということや」
「全滅エンドが希望
というわけやないやろ?」
「すいません、
俺達まだよくわかってなくて」
このままでは
全滅エンドにされるのではないかと、
勇者はおどおどしながら、
事情を説明する。
「かぁー、
なんや自分ら初心者かいな、
また厄介な現場に来てしもうたで」
ドラゴンは天を仰いで嘆く。
「しゃぁーないな、
じゃぁワシが教えたるわ」
ドラゴンは文句を言いながらも、
自分を倒すのに必要なレベル、
装備やら道具を説明してやり、
それがどこで入手出来るか、
その手順なども詳細に教えてやる。
「頼むで、出来るだけ
はよ準備して来てな、
ワシも次の現場行かなあかんねん」
「ありがとうございます、
出来るだけ早く戻って来ますから!」
弱過ぎる勇者一行は
慌てて準備に戻って行った。
-
次の現場では、黒づくめで
とても勇者とは思えない
デザインの一行が、
既に現場入りして待っていた。
「自分らも魔王倒しに行くんか?」
現場入りが遅れたことを詫びてから、
ドラゴンは質問してみる。
「いえ、私達のラスボスは神なんですよ」
一行のリーダーが
真面目そうに答える。
「神がラスボスなんか、
またエライ難儀やなぁ」
確かにラスボスが
魔王ばかりとは限らない。
「いえ、私達ダークヒーローなんです」
「あ、イタタタ
自分らダークヒーローなんか
ワシ勇者専なんやけど、すまんなぁ」
ドラゴンは手で顔を覆い嘆いた。
「いえ、私達ドラゴンさんとかも大丈夫ですから」
リーダーはドラゴンに気をつかう。
「自分らダークなのにめちゃエエ人やなぁ」
ドラゴンはリーダーの好青年ぶりに感心する。
「親切に言うてもらったとこ
苦言を呈するようで悪いんやけどな。
あんたらエエ人やから敢えて言わせてもらうわ」
「キャラはぶれたらあかんで。
世界観も崩さんようにせんとな」
ダークヒーローの見た目とは裏腹に
彼らはとても真面目で好青年過ぎるのだ。
「ご助言ありとうございます、
大変勉強になります」
「それがあかんのや!」
-
次の現場では、
雑魚モンスターが
やる気無さ過ぎだった。
「なんやなんや、そのやる気ない感じは!」
ドラゴンはそういう雑な仕事が
許せないタイプだ。
「そんなんやと自分ら、
もう次使ってもらえなくなるで!」
「HPゼロなんでもう勘弁してください、みたいな
手抜いたやっつけ仕事はあかんで!」
「ワシらかて金貰ってやってるんやから、
キッチリそれだけの仕事はせなあかん!」
職人気質で、
仕事に対するプライドは人一倍高い、
真摯に仕事に取り組む
ドラゴンだった。
-
ドラゴンは今日も転生を繰り返す。
少しでも家族が楽に暮せるように。
そしていつかまた
元の世界で家族と
一緒に暮せることを夢見て。
読んでいただきありがとうございました。
次回連載のマーケティングも兼ねているので、
気軽にご評価いただけると大変ありがたいです。