最終回 かりん、ファイト!
切符を買い、改札を入る。新幹線を待つあいだ、かりんはホームの窓から外を眺めていた。背後に山が迫り、その上に快晴の青空が広がっていた。
はあと小さなため息をもらすのは、ほんのりと複雑な心境にあったからだ。未来に対するあふれんばかりの希望と、これから故郷を離れるのだという寂しさを同時に味わっていたのである。
ほどなくすると新幹線がすべりこんできた。かりんは乗りこみ、席につく。やがて出発し、かりんはその微妙な振動に心を落ちつかせた。
トンネルを抜けるとぼんやりと外の景色を眺める。大阪、京都を過ぎ、列車は進む。車内で弁当を食べ、満腹したところでうとうととする。
夢を見た。
映画のセットだろうか、かりんは演技をしているようであったが、なぜかまわりは外国人ばかりだった。監督が近づいてくる。なんとハリウッドでもっとも有名な監督の一人ではないか。監督の短い説明があったあと、かりんはふたたび演技に入る。
あっと思ったのは、自分の相手役があこがれのトム・エリックソンだったからだ。何度もアカデミー賞を取ってきた実力派男優である。彼はせりふをいい、かりんもなにか答えるのだが、出てくるのは流暢な英語であったのは自分でも驚きだった。さらに同じ舞台に飛鳥百合も立っていたことから、いまや自分はハリウッド・スターにでもなったというのか。
気がつくと夢の場面は変わり、かりんは大きなステージの上に立っていた。熱い視線が自分に注がれている。満場の拍手と喝采をあび、かりんはそれに手を挙げ、笑顔で応える。彼女はついにやったのだ。かりんの演技が評価され、アカデミー主演女優賞を受賞することになったのだ。
「おめでとう!」
プレゼンターが賞を渡してくれた。ジェニファー・ウィリアムズだった。彼女は満面の笑みを浮かべ、かりんを強くハグしてくれた。さらに盛大な拍手が鳴る。観衆――といっても並みいるハリウッドの大スターたちは総立ちになり、かりんの栄光をたたえた。
(ああ、最高――)
かりんは天をあおぎ、涙を抑えた。
「人生はなにかをするためにある」
と恩師は説いた。人にはみな存在理由があり、その一歩目は好きなことをやることだと有田先生はいった。
「なにか夢中になれることを見つけろ。きみたちの未来はその先にあるのだから」
先生はたしかにそう教えてくれたが、すべてはまさにそのとおりであった。かりんにとってのそれは演技をすることであり、これこそが彼女の天職であった。好きだからこそどんな苦労をいとわずにつづけられ、その努力も実り、彼女はついに世界の頂点に立っていた。
ゴトンと列車が揺れた。はっと目を覚ます。いまのは夢だったことにかりんは気がついたが、不思議と胸の内にはすがすがしさが広がっていた。
そろそろ東京に近づこうとしていた。
さて、夢の都にはどのような冒険が待ちうけているのだろうか。映画の現場など生まれてはじめてのことだ。きっと怒られることも多いだろう。緊張の連続でもあろう。が、自分はこのためにがんばってきたのだから、なんとかなるにちがいない。
(いや、なんとかしてみせる――)
きりりと唇を結び、かりんは確信に満ちた表情を浮かべた。
本当の勝負はこれからだ。彼女はさっそうと立ちあがり、夢に向かって大きく踏みだしていった。
「かりん、ファイト!」
彼女は自分を励ますように胸を目いっぱいに張った。
(ファイト! かりんの青春日誌・完)
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