離の章 大ピンチ!
おかしい、たしかにここに置いたはずなのに――かりんはきょろきょろとあたりを探したが、やはりなかった。
直観的に吉沢えり奈を見たが、彼女は素知らぬ顔で化粧を直していた。
「ちょっと」
といい、かりんはつかつかとえり奈のほうに寄っていった。
「あんたでしょ」
かりんはえり奈をにらみつけた。が、えり奈はちらっとかりんを見やるだけで、あとは無視をした。かりんがほかの人を見回すとだれもが目をそらし、自分のことに専念した。
控え室にそわそわとした空気が流れたが、それ以上どうしていいかわからず、かりんはすごすごと自席に戻った。
テーブルの一点を見つめ、かりんはいらいらした気持ちを必死にこらえていた。くそ腹が立つ。こんなことをしておもしろいのか。人の邪魔ばかりしていったいなんになるというのだ。演技審査も済んでせっかくいい気分でいたというのに、つぎの武道審査はどうせいというのだ。
「あっ」
とかりんが声をもらしたのは、ふとあることに気がついたからだ。
さっとオーディション要項を手に取り、急いでページを繰る。思ったとおりだ。武道審査のときには武道着に着替えなければならないとは、やはりどこにも書いていなかった。かりんを含むファイナリスト全員は、たんに先入観から武道着姿にならなければと思いこんでいただけなのだ。事前説明会でもとくになにもいわれなかったし、となれば、べつに武道着に着替える必要などなく、私服で審査に臨んでも構わないことになるのではないか。
ただ問題は、二次審査のときのジーンズ姿とは違って、きょうのかりんはスカートをはいていたことだ。ミニとまではいわないが、丈は膝の上にあり、とてもこれで足を上げている場合ではなかった。下着が丸見えではないか。
「うーん」
要項を前にしてかりんはうなった。そんなかりんをえり奈は横目でちらっと見て、ふふんと口の端をゆがませて笑った。それに気づいたかりんはカチンとなり、ふんっと鼻息を荒くした。
(見ときなさいよ!)
かりんは心の中で毒づいた。
もうこうなれば捨て鉢だ。ここまで来てこれ以上失うものなどない。べつに舞台の上で裸になるわけでもないし、ちょっとぐらい下着を見られたぐらいでなにも減ったりはしないだろう。せめてもの救いは、きょうはボクサータイプのショーツをはいていることだ。色気には欠けるが、これだったら思いきりできる。
それに、そういえばなぜか審査員は全員おじさんばかりではないか。
「ふふっ」
かりんは目をキラリと光らせ、小悪魔的な笑みを浮かべた。
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