離の章 魂の輝き
「信じられない……。絶対に信じられない……。嘘に決まってる……」
かりんの目から涙が一粒ぽろりとこぼれた。
胸の内には竜介との思い出がつぎつぎと浮かんでは消えていった。彼とけんかをしたときのこと。彼との楽しいデートの数々。彼とはじめてキスをしたときの甘美さ。彼とはじめてエッチをしたときの喜び。大会に出るためにともに汗水を垂らして練習に励んだこと。そしてその同じ夏に、彼は車にはねられて亡くなってしまったのだ。
せきを切ったように涙があふれてきた。かりんは椅子から床に崩れ落ち、そのままベッドに顔を突っ伏して号泣した。
「先輩……先輩……。なんでわたしを置いていったの? なんで死んでしまったの? なんで……なんで……」
毛布をわしづかみにし、かりんは大きな声で泣きじゃくった。
「先輩の嘘つき……」
しだいに涙も収まってきて、かりんがぼそっとつぶやいた。
「いっしょにいろんなことをしようと約束をしてくれたのに……。もっといっぱいデートをして、もっといっぱい映画も観て、もっといっぱい……もっと……」
ふたたび感情が激しく込み上げてくる。
「ディズニーランドやユニヴァーサル・スタジオにもまだ行ってないのに……」
大きな口を開け、あーんあーんと泣きつづけるかりん。
彼女の魂から悲しみが放射され、会場全体を包みこんだ。さゆりと朋美もかりんの放つオーラに呑みこまれ、涙を抑えきれなくなっていた。客席のあちこちからもすすり泣きが聞こえ、いまでは場内は完全にかりんに支配されていたともいえる。
そしてもう一人、目頭を熱くしている女性がいた。かりんの母・夏子であった。
彼女はさゆりに呼ばれて、こっそりと会場に足を運んでいたのだ。応募総数二万人以上から最終審査に進出したのはわずか十二人だとさゆりに知らされ、こういう状況にまでなってもはや意地を通している場合ではなく、夏子は自分の娘にチャンスを与えてみることにした。
もしこれで娘がグランプリでも取れば、そのときは素直に祝福をしてやろう。だが、そうでなければ、夏子はこのまま黙って帰るつもりでいた。ただし、これからは以前のように口うるさくいうのはやめることにしていた。それどころか、これまで娘の将来のためにせっせと貯金してきたお金の一部を渡し、娘の活動をサポートしてやってもいいとさえ思うようになっていた。目の前でがんばっている娘の姿に、夏子はハンカチで涙をふいた。
その舞台上のかりんは、いま不思議な感覚を味わっていた。あふれてくるままに任せて内面を表現しているだけでとくに演技をしているのだという意識はなかったのだが、同時に彼女の中にはそういう自分を冷静に見つめている自分もいた。その部分はつぎにどう演技をするべきかをいちいち教えてくれて、かりんはそのとおりにしているにすぎなかった。ちょうど感情と理性が協力しあって、ダンスをしているようなものであった。
「そうだ! これだ! これぞ彼女の本当の姿だ!」
朝山栄次郎はわれ知らずのうちに興奮をしていた。
これではっきりした。関西地区審査のときに直観したことは間違いではなかったのだ。彼女にはたしかに魂の輝きがあり、しかもそれはとんでもなく巨大なものなのだ。観衆を一瞬にしてとりこにしてしまうこの圧倒的な存在感と迫力――朝山は激しい感動に打ち震えていた。 |