離の章 圧倒的演技力
「ああ、見てられねぇな」
と朝山がこぼしたのは、星野かりんがまたせりふに詰まったからだ。さっきから何度目だろうか。集中力が足りないといえば、これほど集中力がないのも困りものだろう。本番に弱いようでは、女優としては話にならない。
朝山は自分には人を見るがあると自負していた。現に朝山は何人もの新人を発掘しては、世に出してきた。決め手はなにかと問われれば、朝山はすかさず、
「その子の魂の輝きだ」
と答えるであろう。
演技や歌や踊りのうまさではない。そんなものはレッスンを受けて充分に練習をすれば、だれでもある程度まで上達できる。
だが、それよりも大事なのは、その子の内面より自然とにじみ出るものなのだ。それを朝山は魂の輝きといい、星野かりんにはそれがあった。演技の面ではまだまだ荒削りだったが、それよりも彼女にはとてつもなく大きな可能性が感じられた。
だから最終審査への進出者を決めるとき、朝山は星野かりんを強く推したのだ。
「それなのに――」
いま目の前にいる彼女はなんだ。これではたんなる可愛いだけの素人ではないか。
やがて星野かりんの演技も終わり、つぎの吉沢えり奈の出番となった。
「だから何回いえばわかるのよ!!」
吉沢えり奈が怒りをあらわにした。もちろん台本どおりの芝居である。
「なんだって!? おれにそんな偉そうな口を利いていいと思っているのか! おまえは自分中心にしかものが考えられないのか!」
相手役を務める男優が返す。
「ああ――! もうっ、いや!!」
と叫び、えり奈は男優の厚い胸板を拳でたたいた。
「あんたなんて嫌い! 嫌い嫌い嫌い!!」
えり奈はたたきつづけ、駄々をこねた。
たまりかねた男優は、がばっとえり奈を抱きしめた。じたばたするえり奈。
「もうなにすんのよ! 放してよ!」
だが、彼女のたたく力がしだいに弱まっていく。
「もう……放してよ……」
声も小さくなっていき、えり奈は相手の胸に頭をつける。そのえり奈をぎゅっと抱きしめる男優。
「ごめんな……。おれがわるかった……。ちょっといいすぎた……」
男優は謝り、えり奈は、
「ううん。わたしこそごめんね……」
と答え、顔を上げて男優を見つめた。
吉沢えり奈の迫真の演技に朝山は背中がぞくぞくとした。彼女にはまさしく魂の輝きがあり、女優としての資質が充分にあった。将来大物になっていくのは、こういう女の子であろう。
と、いよいよ心に引っかかるのは、さっきの星野かりんだ。あのちぐはぐな芝居はなんだったというのか。やなり本番に弱いタイプなのか。それともたんに練習不足か。であれば、彼女にはなおさら女優になる資格などないだろう。
朝山はため息をつき、そっと目を閉じた。
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