離の章 いざ本番
「あっ、かりん先輩! ありましたよ。『押忍! 空手少女』最終審査会場――」
看板を指し、そう叫んだのはわざわざ東京までついてきてくれた朋美だった。
「それにしてもすごいな、かりん。ほんまにここまで来てしまったもんな」
しみじみといったのは、同じくお供をしてくれたさゆりだった。
「うん、自分でもびっくり」
目の前の超近代的な建物を見上げながら、かりんはつぶやいた。
さすが最大手のペガサス映画会社の本社ビルだけはある。上のほうがかすんでよく見えないほどに高い。
かりんはまぶたを閉じ、これまでの半年間を振りかえった。
アメリカ留学時に女優になるのだと決め、夢と希望を胸に帰国したものの周囲の猛反対にあい、また、なかなかどのオーディションに受かることもなく、現実は困難に継ぐ困難だった。それがやっとのことで努力がむくわれ、かりんはこうして大きなチャンスを手に入れることができた。
「ああ――」
かりんは感動で涙が出そうになった。
と、ぱっと目を開けると、朋美が審査会場を示す看板の前に立ち、得意気にピースをしていた。
「じゃ、撮るよ」
さゆりは携帯電話に内蔵されているカメラのレンズ部を後輩に向けていた。
「はい、さゆり先輩。お願いします」
と朋美がいうやいなや、カシャとシャッター音がした。
「…………」
かりんは呆気に取られてそんな二人を見つめた。人がせっかく感慨にふけり、この感動的な人生の一瞬をかみしめているというのに……。
「なんであんたがここにいるの!?」
背後で聞きおぼえのある冷たい声がした。
驚いて振りむくと、案の定それは吉沢えり奈だった。
関西地区審査のときは少々負けている気がしたが、あれからかりんも努力を重ねてきたのだ。ここまで来たからには、もはや不要な引け目を感じている場合ではないだろう。
「そっちこそ、なんでここにおるねん」
かりんは対抗意識をむき出しにえり奈をにらんだ。
「ふんっ」
とえり奈はそっぽを向き、さっさとビル玄関内へ入っていった。
「だれよあれ」
といったのはさゆりだった。
「う、うん。ちょっとね。わたしの強力なライバルといったところかしら」
「ライバル!? めっちゃ感じわるい人ですね」
朋美はいい、えり奈が消えていったあたりを見た。
「さっ、わたしらも行こう」
気を取りなおし、かりんはさっそうと歩きだした。
|