離の章 オーディション準備
「それでですね、最終審査は東京になりますが、もちろんお受けになられますよね」
「はい」
「オーディションの詳細につきましては、また後日お知らせしますのでよろしくお願いします」
「あっ、こちらこそよろしくお願いします」
かりんは頭を下げ、電話を切った。
「合……格……。合格……。合格? ああ――、合格や!! わたし、合格したんや!」
やっと実感が湧き上がってきた。かりんはベッドに倒れこみ、足をバタバタさせて大喜びをした。
べつにグランプリを取ったわけではないが、これで女優に一歩、いや、十歩ぐらいは近づいたのではないか。たとえ勝たなくても、最後まで残れただけでも大きな自信になるだろう。
「やったね、かりん。でも本当の勝負はこれからやで」
かりんは何度もうなずき、自分にいい聞かせた。
それから数日後、事務局からの郵便物が届いた。最終審査は二週間後、東京千代田区にあるペガサス映画会社の本社ビル内の大ホールで開催されるとのことだった。かりんを含めてファイナリストはわずか十二名、二万人の中から選ばれた少女たちだけあって、オーディションはレベルの高い戦いが予想されそうだ。
郵便物に同封されていたのは、課題演技審査のための台本だった。二次ではスタッフがせりふを朗読しての芝居であったのに対して、今回は現役俳優を相手に演技をすることになるようであった。
これ以外に台本のない自由演技の審査があり、テーマは当日発表されるとのことだった。さらには武道の動きを見せる演武審査もあるという。だが、これに関してかりんは自信があった。なにしろ三年間、少林寺拳法を中心とした生活を送ってきたのだ。
問題は演技のほうだ。吉沢えり奈の芝居を目の当たりにして、かりんは自分の実力の無さを思い知らされた。いや、本番まであと二週間もある。それまではひとときも無駄にすることなく、全エネルギーを準備に注ぎこもう――かりんはそう決意した。
かりんは徹底的にせりふを覚えこみ、鏡に向かって動きと表情を確認していった。学校の授業中も台本を教科書の裏に隠し、こっそりと練習をした。頭の中でせりふがぐるぐると回り、かりんは寝ても覚めてもオーディションのことを考えた。
これに人生がかかっているともいえる。いまのがんばりが将来への扉を開くことになるかもしれない。なんとしてもチャンスをつかみ、この映画に出演して女優になってやるのだ。時間はいくらあっても足りないぐらいであったが、かりんはその制限された状況で精いっぱいの努力をした。
そして、ついに彼女は運命の日を迎えた。 |