離の章 演技審査――えり奈編
とはいえ、演技に関してはまったくの素人の彼女である。かりんは下手な小細工をするよりも、なるべく自分らしさをそのまま出すようにした。背伸びすることなく、虚勢を張ることもなく、リラックスして自然体でいることを心がけた。
また、信じられないかもしれないが、意外に役に立ったのは援助交際での体験であった。援助交際ではかりんは三十代から四十代にかけての中年を相手にしてきたが、いま目の前に並んでいる審査員はみなそれぐらいの年齢であった。どれほど大層な肩書きを持っていたとしても裸になればどんな人間もみな同じなのだ。
そういうこともあり、かりんは不要に緊張することなく、じつに伸びやかに役を演じることができた。
演技も終わり、自分の席に戻るときにかりんはちらっとえり奈を見やり、口の端で得意気に笑ったが、えり奈はそれにも気づかないほどに役に入りこみ、集中力を高めていた。
そしていざ彼女の番となった。
「わたし、翔太くんに美奈子のことで相談されたことがあってんから」
えり奈がせりふをいうと同時に、その場に本物の美奈子が現われた。もちろん目の錯覚であったが、まるでえり奈が本当にだれかに向かって話をしているのではないかと思えるほどにその演技は真に迫っていた。
「えっ、そうなの? どんな相談?」
スタッフが答えると、えり奈は口ごもりながら、
「美奈子に好きな人はいるのかとか、美奈子はどんなタイプが好きなのかとか、いろいろ聞かれたりした……」
とつぶやいた。
「えっ、嘘!?」
驚いたふうに美奈子役がいう。
「……ほんと……」
ワンテンポ遅れてえり奈が返答をしたが、そのようすはいじらしい少女のようであった。
「あっ! ひょっとして、あなたこそ翔太くんのことが好きだったりして」
美奈子役が指摘をすると、えり奈は顔を真っ赤にした。
「そ、そんなこと……ないもん」
えり奈はうつむき、そのまま黙りこんだ。
審査はこれで終了したが、彼女の真実味ある演技にだれもが圧倒されていた。
控え室に戻ってからもかりんは声が出ず、あまりにものショックにえり奈のほうにまともに目を向けることができなかった。実力差をまざまざと見せつけられたようであった。
「女優なんてそう簡単になれるものではないぞ」
いつか担任にいわれたことがあったが、本当にそうなのかもしれないと、かりんはいまさらながらその言葉を身にしみて実感していた。 |