離の章 演技審査――かりん編
関西地区審査の受験者は五十名であり、五人ずつ審査部屋に入り、オーディションを受けることになった。受験者と審査員は対面で座り、オーディションのようすは録画されていたので、それだけに緊張した雰囲気があった。
だが、かりんが場の空気に呑みこまれずに済んだのは、まださっきの腹立ちが残っていたからだ。
「ではこれより二次審査をはじめます」
進行役が宣言をすると、受験者はまず一人ずつ自己紹介をしていった。
五名中、かりんは四番目だったが、このころにもなると気持ちはだいぶ落ちつき、集中力も高まっていた。
「星野かりん、十八歳です!」
順番が回ってくるとかりんは勢いよく立ち上がり、大きな声でいった。
「高校ではみっちりと少林寺拳法の修行をしてきたので、この役はまさにわたしのためにあるといえるでしょう!」
かりんは堂々と、そしてぬけぬけといってのけ、いい終わると同時にえいやっとありったけの気合を入れ、短い単独演武を見せた。拳が鋭く空を切り、ジーンズをはいた足が高々と上げられた。アピール度は抜群であり、審査員や他の受験者が感心しているのがわかった。一人をのぞいて……。
(なによ、この子――)
悔しさに歯がみをしたのは、吉沢えり奈だった。というよりも、えり奈は一瞬でも星野かりんに心を奪われてしまった自分が許せなかった。ほかの人に負けてもよかったが、えり奈は星野かりんにだけは負けたくなかった。たしかにきょうはじめて会う相手ではあったが、なぜか彼女に対してえり奈は自分でも理由のつかないライバル意識を抱いていた。
だが、えり奈にとって挽回のチャンスはすぐにめぐってきた。自己紹介のあとは演技の審査に移ったのだが、かりんよりも、ふだんからレッスンを受けているえり奈のほうが有利であるのはいうまでもない。
台本はオーディションに先だって受験者全員に送られていた。短いシーンを役に成りきって演じるわけだが、相手役は声のみで、スタッフが読み上げることになっていた。つまり、ある意味においてこれは一人芝居であり、目の前に相手がいないだけに難しい面もあったが、それだけに純粋に演技力が試されることになる。
受験者は一人ずつ審査されていき、かりんの番となった。
「じつはね、中学時代、翔太くんって美奈子のこと好きだったんだよ」
かりんは美奈子という名の透明人間に向かってせりふを投げかけた。
「えっ、嘘!?」
と美奈子役のスタッフが返す。
「ほんとだよ。翔太くんってね、けっこうもててたのに、それでも美奈子のこと想ってたから、だれともつきあわずにいたんだよ」
よどみなくせりふが出てくるのは、かりんが徹底的に家で練習をしてきたからだ。 |