離の章 悔し涙
かりんは情報雑誌やインターネットを調べ、できる範囲内でオーディションに応募しては受けていった。とはいえ、最初からそううまくいくわけもなく、かりんはことごとく落ちるばかりだった。そのたびに落胆もしたが、すぐに気を取りなおしてはつぎのオーディションを探した。
また、目標ができると意識まで変わるのか、かりんはますます演技の研究に熱を入れるようになった。好きな俳優のドラマや映画をビデオに撮ってはせりふの練習をしたり、その俳優になりきって芝居をしたり、かりんは自分の実力を高めることに余念がなかった。オーディションを受けるたびに場慣れもしていき、同時に多くの貴重な体験をえることができたので、たとえ落選したとしても受験することに意義があるともいえた。
ただ、かりんにとって頭痛の種は、自分の母親だった。
「もうええ加減にしてよね、かりん。お母さん、あんたがこんなことをするために、あんたを育ててきたわけやないのよ」
母親はことあるごとに愚痴をこぼしてきた。
「じゃ、なんのためにわたしを育ててきたっていうの?」
かりんはそんな母親にいらだちをおぼえ、同時に許せなかった。なんで娘の生き方を認めてくれないのか、なんでありのままの自分を受け入れてくれないのか、なんで自分のじゃまばかりをしてくるのか、それがどうしても理解できなかった。
「わたしがお母さんの期待どおりの人生を選べばお母さんは満足するわけ? わたしには自分で自分の人生を選ぶ権利がないわけ? ねえ、お母さん、はっきり答えてよ」
「そんなことはいってないでしょ。ただええ大学を出て、ええ仕事についてほしいと頼んでるだけやない。それがいちばんあんたのためになるんやから」
「あんたのため、あんたのためっていうけど、ほんまはお母さん自身が安心するためでしょ!? わたしのためやなくて、お母さん自身のためでしょ!?」
「そ、そうよ。でも、あんたの幸せはお母さんの幸せなんやから、結局は同じことでしょ」
「同じやないわ。わたしの幸せは女優になることなんやから」
「受けるオーディションに全部落ちて、どうやって女優になるっていうの? もうわかったでしょ? 世間はそんなに甘くないのよ。だからもうええ加減にあきらめて、さっさと受験勉強をしなさい!」
夏子は憎しみをこめた目で娘をにらみつけた。子供は黙って親のいうことを聞いておけばいいのに、この子はなにかにつけて反抗ばかりしてくる。夏子は怒りで腹の中が煮えくりかえるようであった。
だが、それはかりんも同様だった。だいたい母はむかしからあれこれとうるさかった。ああせい、こうせいといちいち口出しをし、少しでも気に入らないことでもすれば、母はすぐにぐちぐちと不満をぶつけてくる。かりんはそんな母が嫌いだった。これではだれの人生かわからないではないか。自分は母の人形だとでもいうのか。
かりんはぷいっと顔をそむけ、そのまま家を飛びだしていった。
「お母さんのバカ……」
悔し涙を流しながら、かりんはとくに行くあてもなく走りつづけた。
「見返してやる……。絶対に見返してやる……」
こうなれば意地だった。なにがなんでも女優になって母を見返してやるのだ。それでだれが正しいのか証明してみせるのだ。 |