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ファイト! かりんの青春日誌
作:天野美里



離の章 やっと見つかった夢


「さあ、カリン。もう一度挑戦してみて」
 やっと解放されるとシャロンはいい、かりんは完全に開きなおったように、みんなの前で狂ったように笑いはじめた。そのあまりにものはじけぶりに生徒たちの表情がぱっと明るくなり、かりんはなんだかみんなに受け入れられた気持ちになった。
 中学時代、かりんはたしかに演劇部に所属していた。が、決して真剣にやっていたとはいえず、部員たちはたいていおしゃべりに時間を無駄にした。学園祭の前に適当に練習をするだけで、この演技スクールの生徒たちのように、だれも本気で俳優になってやろうという者などいなかった。しょせんそれは学校のクラブ活動にすぎなかったのだ。
 それよりもシャロンの演技スクールには武道場に漂うようないい緊張感があった。互いに励ましあい高めあう、そういう空間だ。厳しい中にもあふれんばかりの優しさが感じられるシャロンという人物はどこか有田を連想させ、そういうことからか、かりんにとってスクールの雰囲気はなんとなく意心地のいいものであった。
 この翌週もかりんはジェニファーといっしょにスクールに足を運び、その魅惑的な空間を楽しんだ。そうするなかで、かりんはひそかにある思いをいだくようになっていた。
(今度はちゃんと演技の勉強をしよう――)
 というものだった。そしていつか日本を代表するような女優、いや、ハリウッド映画にも出演できるような大女優になってやろう。
 目標というか、憧れはあった。それは大女優の飛鳥百合である。抜群の存在感と演技力によってハリウッドからのオファーも殺到し、彼女は実際にアカデミー賞にノミネートされたこともあった。そのうえすごかったのは飛鳥百合がフリーダイビングの世界記録保持者であることだった。
 もちろんかりんにはフリーダイビングをしようという気持ちなどなかったが、要するにかりんは飛鳥百合のような偉大な女優になってやろうと思うようになっていたのだ。決意が一気にそこまで飛躍するほどにシャロン・ストリームの影響力ははなはだ大きく、ジェニファーと過ごすひとときは刺激に満ちていた。
 だが、かりんがそんな途方もない夢を描くようになった背景には、有田先生の教えも無視はできない。
「夢はな、でっかいほうがいいんだ。ちょっとやそっとでは成し遂げられそうにもないような内容でちょうどいいんだ。すぐに実現できるようなものは夢などとは呼ばないし、努力をする甲斐もない」
 有田は部員たちに何度もいい、その思想はいつのまにかしっかりとかりんの内部に根づいていたようで、ここへきてかりんがやりたいことを見つけたのと合わせて、最大限に花開くこととなった。

 帰国前日――。
 かりんと朋美の両ホスト・ファミリーは合流し、全員でディズニーランドへくりだすことになった。総勢十一名、三台の車に分乗して、一行は全米きってのアミューズメント・パークを目指した。
 東京ディズニーランドにも行ったことのないかりんと朋美である。絶叫系、ファンタジー系、アドベンチャー系、どれをとっても夢があって刺激的だった。この世の中にこれほど楽しい場所があるのかと二人はある種の衝撃すら受けていた。
 滞在中さんざん言葉で苦労をしたかりんであったが、たとえばジェットコースターにジェニファーと乗っただけであらゆる障壁――言葉のみならず、文化や人種を含む――が瞬時に消え、同じ恐怖を共有することによって二人は深いレベルでつながることができた。
 ただ、ふとした拍子にかりんが寂しさを感じたのは、こうした楽しさをもはや竜介とわかちあえないと改めて認識したからだ。そう思うと急に込みあげてくるものがあった。が、すんでのところでこらえたのは、その場に朋美やジェニファーもいたためだ。
 ディズニーランドから戻ったのち、二家族はウィリアムズ宅に集まり、かりんと朋美のお別れパーティーを開いてくれた。ジェニファーはクラスメイトや演技スクールの友人たちを呼び、ウィリアムズ宅は内から外まで大勢の人間で埋めつくされた。大音量で音楽が鳴り、みなはめをはずして浮かれ騒いだ。
 かりんが驚いたのは朋美である。彼女はどこにいるのだろうとその姿を探すと、朋美はなんと庭の端のベンチに座り、男の子といい雰囲気になっているではないか。男の子といっても、もちろんハイスクーラーのことだ。二人は顔と顔がくっつきそうになるほどに寄りそい、朋美は彼の手をもじもじともてあそんでいた。まるで恋人同士のようだった。朋美もやるねとかりんは心の中で苦笑した。
 この翌日、二人はそれぞれのホスト・ファミリーによってロサンゼルス国際空港まで送られた。
「カリン、元気でね。いつかハリウッドで会おうね!」
 別れぎわにジェニファーはいい、かりんと固い友情の握手を交わした。ジェニファーの目にうっすらと涙が浮かべられていたのは決して演技ではないだろう。
「ありがとう。かならずアクトレスになってアメリカに戻ってくるよ」
 とかりんは英語でいい、ここでホスト・ファミリーにさよならをした。朋美も家族に別れを告げ、かりんと二人で搭乗口のほうへと進んだ。
 機内に入ると、かりんは窓の外に目をやり、心の中でつぶやいた。
(女優になったる! 絶対に女優になったるんや!)
 胸の内はすでに燃えあがらんばかりだった。












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