離の章 熱狂の渦 2
ただ、こうなってかりんと朋美があわてなかったのは、あらかじめ演武を二つ用意していたからだ。二人は、えいやっと構えると、観衆はさっきにも増して大きな喚声を上げ、盛りあがった。生徒の中には、かりんと朋美が突きや蹴りを出すたびに頭を振ったり体をよけたりするのもいたぐらいにその世界に引きこまれていた。
二人が困ることになったのは、このつぎだった。二つのパターンしか準備していなかったのに、ふたたびアンコールが上がったからだ。どうしようかと二人は困惑まるだしに顔を合わせていると、ここでひらめくように苦肉の策を思いついたのは朋美のほうだった。この場で本気の剛法乱捕りをやってみせようというのである。
「わかった」
かりんは朋美にうなずいた。こうなればどうにでもなれという捨て鉢な気持ちもあったかもしれない。
二人はぱっと離れ、気合いを入れて構えた。場の空気が一瞬にしてしーんとなったのは、二人の殺気を察知したためであろう。有田拳法の乱捕りは実戦を想定したものであり、気のゆるみは大けがにもつながりかねないので、練習する者にはつねに真剣さが求められた。
先に仕かけたのは朋美だった。突きと蹴りの鋭いコンビネーションだった。かりんはそれを受け、素早く体を回転させ、後ろ廻し蹴りを放った。みごとに入り、朋美は軽くよろけた。オオーという声が広がり、なんだか恥をかかされた心境になった朋美はかっとなり、かりんにふたたび挑みかかった。
かりんは受けながら下がり、反撃する。朋美はそれを受け、中段ストレートから逆アッパーを入れた。かりんはのけぞり、かろうじてそれを避けたが、朋美はさらに平手でフックを放ち、これがきれいにかりんのほおに決まった。しかも小憎たらしいことに、後輩であるはずの朋美は瞳に不敵な笑いを浮かべているではないか。
(もうっ、頭に来た――!)
とかりんは朋美の太ももにローキックを入れ、朋美のほうもかりんにお返しの下段蹴りを決めた。かりんはもう一発同じ場所を狙うがはずれ、朋美の中段廻し蹴りがかりんの胴に入った。
フルコンタクト空手並みの迫力と激しさに、中庭にはもはや浮きたった雰囲気はなく、観衆は呆気に取られて言葉を発する者もいなかった。あたりに響くのは二人が殴りあう音ばかりで、この痛みをわが痛みのように顔を苦痛にゆがめる生徒もいた。
「オッケー、二人に盛大な拍手を送ろう!」
収拾がつかなくなったかりんと朋美を見てとって、スミス校長がマイクで割って入った。
はっとわれに返った観衆は改めてことのすごさに気がつき、全員立ちあがって校庭が振動するほどに拍手喝采をした。二人は照れつつも毅然とした表情で四方に合掌礼をし、みんなに手を振りながら退場した。
それからが大変だった。二人はまるで大スターのようにあとをつけまわされ、ロス滞在中の二週間はろくに落ちつくもできなかったほどだった。もちろん授業はきちんと受けたが、休み時間から放課後までハイスクーラーたちは二人に群がっては質問攻めにしたり、中にはサインを求めてくるのもいた。
学校側も特別授業をもうけ、二人は先生役となり、各クラスの生徒に少林寺拳法を教えた。かりんと朋美は本来違う学年であったが、この少林寺の授業にかぎり、二人はいっしょに指導にあたった。二人とも拳法の手ほどきをすることには慣れてはいたが、ここでもやはり問題となったのは言葉の壁であった。
しかも拳法独特の表現も多く、二人はまたしても語学力のなさを通感していた。 |