離の章 熱狂の渦 1
二人はロサンゼルス郊外のハイスクールに通うことになった。到着した翌日にさっそく学校へおもむいたのだが、ここでも違ったのはその登校風景だった。生徒たちは車やスクール・バスで学校前に乗りつけ、それは狭い校区内をぞろぞろと歩く、日本の子供たちに比べると、やはり開放的で自由に感じられた。
「どうやった?」
と朋美にたずねたのは、かりんだった。
「めっちゃ楽しい。ホスト・ファミリーはみんなめっちゃええ人ばかりやし、でも……」
朋美は軽くうつむいた。
「でも、なに?」
かりんは朋美の目をのぞきこんだ。
「思ったよりも言葉が通じなくて、ちょっとショック。ある程度まではなんとなくわかるのやけど、それ以上になるともう全然」
ちょっと困った、というような表情を朋美は浮かべた。
「うそ!? 朋美、めっちゃ通じてたやないの。朋美がそんなふうにいうんやったら、わたし、もっとダメ」
二人は同時にため息をついた。
アジアからやってきた二人の少女を紹介するために全校生徒が集められた。場所は中庭のようなところで、ただ地面は庭ではなくコンクリートだった。そのコンクリート面の周囲にぐるりと教室が並び、二階の渡りろうかと合わせて、数えきれないほどの瞳がきらきらと二人に注がれていた。
その全注目の中、二人は校長のあとに従って歩いた。ハイスクーラーたちがざわざわと騒いだのは、少女たちが武道着を身にまとっていたからだ。二人とも長い茶髪をポニーテールにくくり、黒帯の先は彼女たちの歩調に合わせて揺れていた。
「ゴホン、ご静粛に!」
校長はマイクに向かって、二人を簡単に紹介した。
かりんと朋美も一言ずつあいさつをし、このあと二人はいよいよ少林寺拳法のデモンストレーションを行うことになった。これまでに練習してきた成果を披露するのだが、ただ二人が不安をいだいたのはコンクリートであった。演武には地面に転がる場面もあり、つるつるの床である日本の武道場とはわけが違った。
実際、全生徒の前での実演を済ませてみると、二人はあちこちに細かいすり傷を作っていた。が、まったくなんの痛みも感じないぐらいに、二人が演武に集中していたのもたしかだった。
いや集中をしようにも、ここは異国の地である。かつては敵同士でさえあった日本とアメリカであり、二人はそんな敵地に乗りこんで演武を披露していたのだ。というのは少々大げさで、二人に注がれていたのは好奇心に満ちた好感的な視線ばかりだった。
場全体は異様なエネルギーに支配されていた。二人はその熱気に酔うかのように気持ちが高ぶり、自分たちの拳法を見せた。二人が技をくりひろげるたびにハイスクーラーたちはワーオとかクールとかいう感嘆の息をもらし、ただ二人の演武の力強さと美しさに魅入られているようであった。
最後の技が決まった。二人は間合いを取り、余韻を残したまま互いに合掌礼をした。わーっと喚声が上がった。野球でバッターがホームランを打ったときに上がる類のものだった。生徒たちは口笛を吹き、足を踏みならした。立ちあがって拍手と喝采をした。
その光景にかりんと朋美はとまどいながらも、あまりにも開けっぴろげなアメリカ人たちを見た気がした。人前では感情を表現することを知らない日本人とは大違いだった。日本であれば先生たちが生徒をたしなめるような場面であったが、ここではその教師までがいっしょになって興奮をしていた。しかもなんと、このあとアンコールの大コーラスとなった。 |