離の章 異国の地へ
搭乗までの時間、二人は興奮のあまりまったく落ちつくことができなかった。二人ではしゃぎ、いつまでもぺらぺらとおしゃべりをした。機内に入ってからもこんな調子であった。二人にとってはじめての海外旅行であり、食事やトイレにしてもすべてが新しい体験となった。
ラッキーであったのは、以前より楽しみにしていた映画が上映されたことであった。ジャンルはかりんの好きなラブ・コメディーであり、かりんと朋美はげらげら笑いながらそのすてきな物語を鑑賞した。
不思議であったのは日付変更線だった。このために二人は夕方に日本を発ったはずなのに、ロセンゼルスに到着したのは、時間をさかのぼってその同じ日の朝であった。まるでタイムワープをしたかのようでないか。一日得をしたような気分になったが、帰りにはきっちり一日を損することになるのだから、結局は差し引きゼロであった。
たどたどしい英語で入国審査を通り、ロビーに出ると、二人は自分たちの名前が書かれたプラカードを探した。すぐに見つかった。二人を待っていたのは十二人ほどの団体だった。
「ようこそ、ロサンゼルスへ!」
二人をいっぺんに抱きしめたのは、ハイスクールの女校長だった。大柄で太ったおばさんだった。満面の笑顔に、全身より放射されるオーラはとても温かかった。名前はケイト・スミスという。
「で、あなたのほうがカリンね?」
手にしている資料と見比べながら、スミス校長がかりんにほほえみかけた。が、かりんにはその英語が聞きとれなかった。
「名前を聞いてるかと思います」
とかりんに耳打ちしたのは朋美だった。
「あっ、うん。マイ・ネーム・イズ・カリン・ホシノ」
かりんはあわてて答えた。
つぎにスミス校長は朋美のほうに目を向けた。
「じゃあ、あなたはトモミね」
「こんにちは! お会いできてうれしいです。わたしはトモミ・クロダです」
まったく物おじすることなく、朋美が流暢な英語ではきはきと声を張りあげたことにかりんは驚いた。
スミス校長は背後で控えている一団に目で合図をすると、一人の女の子が前に出てきた。
「ハーイ、カリン! わたしはジェニファー・ウイリアムズ」
と握手を求めてきた。かりんと同じ学年だった。
ジェニファーは自分の両親や兄妹たちをつぎつぎと紹介していったが、早口であったために、かりんの印象にはなにひとつ残らなかった。朋美も彼女のホスト・ファミリーであるレッドリー家とあいさつを交わしたが、朋美が堂々としていることに、かりんはやはり目を見張るばかりだった。朋美の違う一面を見た気がしたのだ。
「じゃあ、きょうはそれぞれのホスト・ファミリーと帰って、またあした学校で会いましょう!」
といったのはスミス校長であり、ここではじめて不安な表情を浮かべたのは、なんと朋美のほうだった。
「先輩……」
朋美はかりんにすがりつくまなざしを向けた。
「大丈夫よ。きっとなんとかなるよ」
本当はかりんも同じ不安を胸の内に隠していたのだが、ここは先輩らしいところを示さなければと、かりんはわざと虚勢を張ってみせた。
だが、そんな心配などまったく笑ってしまうほどに、かりんも朋美も新しい家族とのステイを心から楽しむことになった。両家族は遠く東洋からやってきた二人の女の子の面倒をじつによく見てくれたからである。 |