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ファイト! かりんの青春日誌
作:天野美里



離の章 新入生勧誘 


 四季の中でも、かりんは寒さも和らぎ、だんだんと暖かくなっていく春が好きだった。
 新緑に萌える街路樹のトンネルを鼻唄をうたいながら、かりんは自転車でさっそうと走り抜けていった。流れる風景に目を細め、長く伸びてきた髪を風になびかせると、それだけで幸せな気分になれた。
 いつものように一番乗りで教室に着き、まず窓を開けて新鮮な空気を入れる。
「おはよう!」
 つぎに登場したのは、三年連続で同じクラスになったさゆりであった。
「あしたから新入生の勧誘やね」
 さゆりはいった。
「うん、楽しみやね」
 かりんが答える。
 学校のろうかに拳法部のポスターを張り、パソコンで作成したびらを校門で配る。放課後には見学会を開き、一人でも多くの部員を獲得するのが目標だった。
 各部のアピールタイムがもたれたのは、この日の午後だった。新入生は体育館に集められ、ここで各部はそれぞれの活動について説明する時間を数分ずつ与えられた。拳法部の場合、女子部員がその役割を果たしたのは、女性の華やかなイメージのほうが効果的であったからだ。新入生にとって女性拳士の道着姿は格好よく映るようで、武道場は毎年多くの見学者で賑わった。
 今年はかりんとさゆりが体育館の壇上にのぼることになった。この日のために二人は徹底的に練習をし、その両人に秘策をさずけたのは主将であった。
「おもしろい!」
 といったのはかりんであり、その相手にさゆりが選ばれたのは、彼女は体操が得意であったからだ。さゆりはバック転やバック宙ぐらいであれば体操部のやつらに引けを取らないほどに鮮やかに決めることができた。
 そしていざ本番――。かりんはステージの左側から静かに登場し、えいやっと気合いを入れて構え、一堂の視線を集めた。一年生ばかりでなく、先生たちもなにが起こるのかと固唾を飲んだ。
 と、今度は右側よりさゆりが勢いよく駆けあがり、側転からバック宙を決め、そのままかりんに殴りかかった。かりんはそれを受けて反撃をする。さゆりはいちいち派手にそれをよけ、二人が披露したのは演武というよりも、どちらかというとアクロバットショーのようであった。
 最後は突きと蹴りの激しい攻防があり、二人はぱっと離れた。かりんはさっとマイクを手に取った。
「では、みんなのことを武道場で待ってるからね!」
 と彼女はひとことだけいい、さゆりとステージを飛びおりた。二人は一年生たちの中央を走っていき、体育館から出ていった。新入生たちはどよめき、有田と福本の両先生は苦笑するほかなかった。
 かりんとさゆりのアピール力は抜群だった。連日、例年にないほどの見学者が道場に詰めかけ、そのあまりにもの盛況ぶりにとまどいながらも、部員たちはうれしい悲鳴を上げていた。
 このとき、近藤が考案したもうひとつの秘策は、練習時間を大幅に短縮することであった。そして練習後に部員たちはマンツーマンで見学者の一人一人と座わり――あとはひたすらに彼らの話を聞くだけであった。
 新入生も愛なき時代の子供たちである。かつてのかりんがそうであったように、だいたいどの子もなんらかのかたちで心に寂しさをいだいていた。部員たちは彼らの話に耳を傾け、ありったけの注目を与えてやった。両先生もおり、道場全体にはなんともいえないほのぼのとした居心地のいい空間に包まれていた。
 だが、今度は困ることになったのは、入部希望者が多すぎることだった。とはいえ、彼らをむげに断るわけにはいかず、その全員が少林寺拳法部に入ることが許され、部はこれまでにないほどの部員をかかえることになった。
 女子の副将として、かりんは意気こんでいた。初心者を相手に基本を一から指導するのは辛抱のいることだったが、日々はそれなりに充実もしていた。だが、同時に今年は受験の年でもあり、かりんもそろそろ進路について真剣に考えはじめなければならなかった。
 桜の季節が過ぎ、ゴールデン・ウイークもあって、曜日は足早に駆けていった。ゆっくりではあったが、一年生たちも上達していき、部になじんでいった。樹々の緑はさわやかさを増し、それにともなってだんだんと汗をかきやすくもなった。梅雨には運動場にたまる水を教室からぼうっと見つめ、この時期も明けるとむくむくと雄大に盛りあがった雲が空を飾るようになった。
 気合いが道場の天井に反響し、部員たちは練習に励んだ。そして待望の夏休みに入ると、かりんは三度目の合宿を迎えることになった。












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