離の章 魔の幹部交代式 2
だが、つぎの瞬間その緊張感が困惑に変わったのは、ブーッとだれかが特大のおならをぶっ放したからだ。にもかかわらず、それに対して統制がなにもいわないのは、いったい全体どういうことだろうか。さっきは少々ごそごそしただけで怒りを買ったのに、それよりもはるかに迷惑で下品な音がして統制が沈黙しているのはなぜか。ひょっとすると統制本人がおならをしたとでもいうのか。それならば統制が黙っているのも説明がつく。
「では、ぼちぼちと交代の儀に移ります」
と小島がいうやいなや、次期主将の近藤がさっと立ちあがった。このときに彼がわずかによろめいたのは、彼もやはり足がしびれていたからだろう。
「旧幹部のみなさま、一年間どうもご苦労さまでした。これからの一年間はわれわれにお任せいただきたいと思います」
近藤が朗々と述べた。
「おう、おまえら、あとはしかと頼んだぞ!」
副将相楽は威勢よく立つと、道着の懐よりなにか布切れのようなものを取りだし、座卓にたたきつけた。バンという大きな音が部屋中に響きわたった。なんと、代々受け継がれてきた主将の腕章であった。竜介がつけていたものを相楽は竜介の実家よりもらい受け、いまこうしてつぎの代に引き渡したのである。
さらに相楽はマジックテープで止めてある自分の腕章をはがし、それもテーブルに置き、そのまま部屋から出ていった。女子副将も同様にし、退室した。これに腕章を持たないほかの先輩たちもあとにつづき、統制が腕章を力いっぱいにたたきつけ、
「おらっ、持ってけ、こんやろ!」
と吐きすてるようにいい、部屋を去った。扉がバシッと閉められ、あとにしーんと静寂が広がった。
「さあ、きょうからおれたちが幹部や。おまえらしっかりとついてこいや!」
新主将が声高らかにいったが、一年生は気を飲まれたままだった。
「返事はどうした!」
と活を入れたのは新統制だった。その発言に一年生ははっと正気に戻り、はいっと声のかぎりに応答した。
このあと新幹部も退室し、旧幹部が待つ部屋へ行ったのだが、中に入るや全員たががゆるんだかのように笑いはじめた。腹をかかえて転げまわるのもおり、彼らが爆笑をしていたのは交代式そのものが茶番であったからだ。
まず始まる前に一年生をさんざんにおどしあげ、いざ式に臨むとだれかがおならをする。この間、上級生のだれもが笑いをこらえるのに必死なのだが、一年生だけはなにがなんだかわからずに困惑に突き落とされることになる。これは毎年恒例の行事であって、去年はかりんたちがその立場にあり、今年は朋美の学年がその洗礼を受けることになった。
いずれにせよ、こうして幹部は一新され、かりんは念願の女子副将になったわけである。彼女はおおいに張りきり、これから待ちうける一年間に胸を目いっぱいに膨らませていた。 |