破の章 大会・本番
二人はじつによくがんばった。かりんは朋美に演武の順序を教え、朋美はかりんに技を教えた。大会までの時間が限られていたことから意地を張りあう余裕もなく、二人は互いに気持ちを一点に集中させ、協力しあってひとつの演武を完成させることに最大の努力を払った。
ただ演武自体は竜介と考案したものである。かりんにとって毎日それと向きあうのは、ある面においてとてもつらいことだった。どうしても彼のことを思わずにはいられなかったからだ。が、そうしながらもかりんががんばったのはあの世にいる彼に喜んでもらえるためだった。
(竜介、わたしを見ていてね。わたしだって精いっぱいやってるんやから――)
かりんはそんな思いで演武に取りくみ、悲しみのエネルギーを肯定的なものに昇華させていった。
朋美も毎日、血のにじむような努力をし、演武を徹底的に覚えていった。有田の役割は二人の反発心に火をつけることであり、有田は道場で練習する二人のそばにやってきてはわざと鼻で笑うことをくりかえし、そうするほどに二人は燃えあがっていった。演武指導は福本や道場の他の有段者に任せられ、有田は憎まれ役に専念した。
二人は遅くまで道場に残り、練習に励んだ。道場のない日は福本先生にお願いをして学校の武道場を開けてもらい、そこで練習をした。かりんはますます実力を上げていき、朋美も技に磨きをかけていった。とはいえ、時間はいくらあっても足りず、与えられていた十日間もあっというまに過ぎてしまい、二人は準備不足のまま大会にのぞむことになった。
大会は神戸市内で開催され、県の内外から多くの拳士たちが会場に詰めかけた。そのため会場全体は異様な熱気に包まれていた。
そのプレッシャーに負けないようにかりんと朋美は自分たちを高め、出番までの時間を有効に使い、演武の最終チェックをした。拳法部の仲間もほとんど応援に駆けつけ、二人を励ました。
二人は他人の演武も見学した。さすがにどの組もよく練習をしているようで、二人は圧倒される思いをしていた。上にはいくらでも上はいるのだということを知った。
「さあ、お二人さん、悔いのないように修行の成果を出しきってきて!」
福本は、かりんと朋美を励まし、二人は、はいっと大きく気合いを入れた。並みいる審査員や大観衆が見つめるなか、二人は中央に進み出た。
「かりん! 朋美! がんばって!!」
部員たちが声援を送る。
二人は合掌礼をし、さっと構える。みっちりと練習をしただけあって、二人はじつに堂々としていて格好がよかった。そして大勢が注目をしているという重圧と戦いながら、二人は演武に入った。
かりんが突き、朋美が受けて反撃をする。朋美はかりんのえりをつかみ、かりんはその朋美の手首を取って彼女を投げ飛ばす。二人の呼吸はみごとに一致し、動きに一分のすきもなかった。部員たちは手に汗を握り、部員たちに交じって座っていた有田もわれ知らずのうちに身を乗りだしていた。
やがて二人の演武も終わり、二人は大拍手が起こるなか静かに退場した。
「先輩、うまくいきましたね!」
朋美は大はしゃぎだった。
「うん、やったね。これまでで一番の出来やね」
かりんも満足げな笑顔を後輩に向けた。
いまの二人を見れば、彼女たちがかつては恋のライバル同士であったとは、だれもとうてい信じることはできないだろう。二人のあいだには先輩後輩をこえた友情に似たものさえ存在するようになっていた。
みんなのところに戻ると、二人は残りのプログラムを見学した。それも済むと、彼女たちはついに待望の瞬間を迎えた。結果の発表である。各部門において受賞者の名前が呼ばれていき、いよいよ二人が出場した女子有段の部となった。
目をつぶり、全神経を耳に集中させる。ここで名前が呼ばれれば、すべての努力が報いられるというものだ。
そして入賞者の名前が発表された。わぁーっと向こう端の団体から歓声が上がり、かりんと朋美がいる席では深いため息がもれた。入賞を逃したからである。
朋美が悔しさのあまりに涙をあふれさせた。かりんは朋美の肩を抱き、いっしょに泣いた。さゆりや他の部員たちは二人を囲み、口々になぐさめの言葉をかけた。
「よくやったね」
と声がしたのは、有田だった。部員たちは道をあけ、先生は二人の前に立った。
「きみたち二人を大会に出場させたいとお母さんに聞かされたときは、お父さんも反対をしたが、きみたちのすばらしい演武を見て、それが間違いであったことにお父さんは気がつかされたよ。ねっ、このとおりだ。こんなお父さんを許してほしい」
有田は頭を下げた。その姿に二人――とくにかりん――は心の深いところでなにかが癒されるのを感じた。 |