破の章 福本の作戦 2
「お父さん、それはいいすぎではないでしょうか」
先に憤りをあらわにしたのは朋美のほうであり、そのようすに危うく笑いそうになったのはことを仕組んだ張本人の福本であった。
かりんと朋美をけしかけてペアを組ませることは、両先生のあいだであらかじめ話しあわれたことだった。つまり、すべては芝居だったのだ。ただ、まさかこれほどまでに計画が図にあたるとは、さすがの両先生も予想していなかった。
「わたしもすこしいいすぎだと思います」
かりんのほうも熱くなってきた。
「わたしだってずっと高杉主将と練習をしてきたのですから、黒田さんに合わせるのはそうむずかしいことではありません」
きっぱりと、かりんはいった。負けん気むきだしだった。
福本は自分の心配が杞憂であったことを悟った。かつて敵同士であった二人がはたしてペアを組むだろうかと半信半疑であったが、いま二人は共通の敵――つまり有田――を前にして同じ側に立っていた。
そもそも福本が朋美に声をかけたのは、彼女しかいなかったからだ。三年生はこの夏をもって実質的に引退をし、これからは本格的な受験勉強に取りくむことになる。竜介が大会に出ようとしたのは、それがかりんのたっての願いであったからだ。
二年生では役不足だし、ましてや一年生はまだ実力的には早かった。が、その一年生のなかでも一人だけ、候補者がいた。ただ福本を躊躇させたのは、それが黒田朋美であったことだ。かりんが承知するはずがなかった。朋美にしてもかりんと組むのをいやがるに決まっていた。
そのために福本は有田に一計を案じたところ、ことのほかうまくいき、いま目の前の二人はぱちぱちと火花を散らし、有田をにらんでいた。
「わたしにやらせてください」
と先にいったのはかりんだった。実力の差はあるかもしれないが、ここまでいわれて引きさがるわけにはいかない。がんばり次第では朋美に引けをとらないことを証明しなければ、かりんの気がすまなかった。
「わたしもやります」
朋美も憤然といった。彼女だって負けず嫌いな性格であった。たしかに十日は短いかもしれないが、だからといってやる前からあきらめるのはプライドが許さなかった。朋美もまんまと有田の挑発に乗せられたわけである。
「ねえ、大丈夫? 二人とも無理しないでね」
ことを仕組んだのは自分でありながら、福本がわざと心配そうにしたのはさらに負けん気をあおり、二人の決意を固めさせるためであった。
「大丈夫です!」
まったく同じタイミングで二人がいったからには、福本は内心ほくそ笑んだ。
だいたい福本がこのことを思いついたのは、かりんの気持ちを竜介の死以外のなにかに向けさせるためだった。かりんの心は彼を亡くしたことでいっぱいであり、その状態から抜けださせるには、なんでもいいのでかりんが現実を忘れられるようなものを与えればよかったのだ。
それが少林寺拳法の夏期総会だった。これに出場するのだという目標をかりんに維持させ、それを実現することはきっとあの世へ逝ってしまった彼への供養にもなるだろう。
「そう。二人がそこまでいうのなら、しようがないわね」
福本は右手でかりん、左手で朋美の肩をたたき、二人を励ました。 |