破の章 空っぽのかりん
かりんはベッドの上にごろんとなった。会いたい。いますぐにでも彼に会いたい。どうしてわたしを置いていったのよ。ふたたび激しい感情の波が押しよせてきた。かりんはしくしくと泣き、その波間に揺れたが、そうするうちに波は引いていき、あとには静寂が広がった。が、しばらくするとまたつぎの洪水がやってきては去っていき、泣き疲れた彼女はいつのまにか赤ん坊のように体を丸め、軽い寝息を立てていた。
夢を見た。
「おう、かりん! お待たせ!」
いつものさわやかな笑顔で、竜介が自分に手を振っている。かりんは彼のほうに駆けていったが、いくら走っても走っても彼に追いつかない。はあはあと息が上がる。彼はこちらを向いているのだが、なぜかその表情がだんだんと曇ったものに変わっていった。
「先輩! 先輩!」
かりんは叫び、その拍子にはっと目を覚ました。手は宙をつかんだ形で挙げられ、彼の残像がまだ強く脳裏にこびりついていた。不快な汗が全身にまとわりつき、習慣で時計を確認すると、真夜中の三時だった。
ふと窓の外を見ると、月が妖しく光を放っていた。また涙が一筋、ほおを伝った。目をつぶり、声を出さずに泣く。あれだけ泣いたのに、まだ流す涙があるとは自分でも驚きだった。
携帯のランプが点滅していた。メールが届いていることを示しているのだ。手を伸ばし、メールに目を通す。だいたいが部のみんなからだった。さゆりからも入っており、不慮の事故に対する戸惑いと、かりんへのなぐさめの言葉がつづられてあった。
が、どれだけ心のこもったメッセージが述べられてあったとしても、その内容はかりんの心まで届かず、かりんはそのまま静かに携帯を置いた。
そして夜が明けた。
外に出る気にはなれずに、かりんは部屋に閉じこもったまま一日を過ごした。食欲はなく、とくになにをするということもなく、彼女は自分を失ったままベッドのふちにもたれて座っていた。バイト先には適当な理由をつけて休み、かりんは竜介との思い出に沈んでいたのだ。
通夜はこの晩に持たれた。彼の家に多くの弔問客が訪れ、遺族にお悔やみの気持ちを述べた。かりんの姿にさゆりが駆けよってきた。
「ねえ、大丈夫?」
彼女がそうであるはずもないのに、さゆりにとってそれが精いっぱいの言葉だった。
かりんはさゆりに笑顔を向け、うん、大丈夫とうなずいてみせた。意外とさっぱりした表情にさゆりは安堵した。
竜介のクラスメイトや拳法部の部員たちも続々と集まってきた。かりんは彼らといっしょに座り、積極的に話に加わることはなかったが、竜介の生前の思い出に耳を傾けた。
葬儀はこの翌日に行われた。朝から雨がしとしと降り、それは人の悲しみを敏感に察知し、忠実に反映しているかのようであった。
僧侶がお経をあげるあいだ、かりんは静かに呼吸を整え、無用なことを考えないようにした。焼香するときも無感動に竜介の遺影を見つめ、心を押し殺すことに努めた。
その葬儀も終わると、かりんは何度となく通いなれた道をとぼとぼと歩いた。雨もすっかり上がり、すこし膨張した空気は優しくかりんを包んでくれた。雀たちがなにやらさえずりながら頭上をゆき、かりんは目を細めてそれを追った。
左の空を見る。うっすらと虹が浮かび上がっていた。その七色の孤はいったいなにを約束してくれているというのか。かりんの空虚感が増すようであった。 |