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ファイト! かりんの青春日誌
作:天野美里



破の章 演武大会 


 乱捕り大会のあと昼休みがはさまれ、午後の部に入った。前半は演武の最終練習に時間が取られ、実際の発表は後半からとなった。まず一年生による団体演武が披露された。動作にまだぎこちなさはあるものの、全体としては統一感があり、なかなかに見ごたえがあった。
 つぎに二年生の番となり、一組ずつ順次に自分たちの演武を見せていった。先に済ませた者は肩の荷を下ろしたことによりその表情には安堵感が浮かべられ、あとになればなるほど緊張との戦いが高まっていった。かりんとさゆりもそのうちに入った。しかも最後から二組目だった。取りは朋美のペアだった。
 他の組もよく練習をしており、かりんはだんだんと自信をなくしていった。彼にいいところを見せたい。自分もがんばっているのだと示したい。さっきは乱捕りであんなことになってしまったが、彼は笑ってくれたし、あとは合宿をきれいにしめくくるだけだ。
 そして、ついにすべての勇気をふりしぼるときがきた。かりんとさゆりは全員が注目するなか、静かに場内の中央へ進んだ。二人は呼吸を合わせて合掌礼をする。えいやっと気合いを入れ、双方構えた。数秒にらみあったあとかりんが攻撃を仕かけ、さゆりはそれを受ける。受けから攻撃に転じ、さゆりはかりんを床に転がし、彼女の肩を固定して押さえこんだ。身動きができずに、かりんはギブアップの合図に床を二回ほどたたいた。ひとつの区切りである。
 かりんはさっと起きあがり、二人は間合いを取る。今度はさゆりがかりんの腕をつかみ、かりんは柔法の技でさゆりを転がすが、さゆりはするりとかりんの手を抜き、さらに二人の攻防がつづく。さゆりが押せばかりんが引き、かりんが攻撃を仕かければさゆりがそれを受けて逆襲した。そうやって二人は練習してきた成果を披露し、たいして間違いをおかすことなく演武を終えることができた。
 退場する際にかりんはちらっと福本を見ると、福本はかりんにだけわかるように目でにこっと笑った。かりんはうれしくなり、胸の内に温もりが波紋のように広がっていった。

 最後の組となった。朋美の出番である。朋美は三年の先輩と組み、かりんたちとはさすがに実力差があり、なんとなくずっしり感があった。技の切れや円滑さも違い、それだけに美しくもあった。優雅であり、同時に迫力があった。
(ああ、これは負けたな……)
 かりんはもはや諦めの心境にあった――そのとき、朋美がミスを犯し、演武が不自然に途切れてしまった。朋美はあせりをあらわに動きを止め、失敗を取りもどすまでに緊張した空気が場全体を支配した。
 やがてその演武も終わり、休けいがはさまれた。その間、先輩たちは集まって話しあい、審議をした。
「メダル欲しいね」
 といったのはさゆりだった。スポーツ・ドリンクをごくごくと飲み、のどを潤していた。
「うん、ほんまやね。なるべく輝いてるやつがええな」
 かりんが答えた。
「そうやね。人一倍がんばったんやから、でけたら金メダルがええな」
 なんとも無邪気にさゆりが笑った。
 そして結果発表となった。主将の竜介が前に立ち、まず銅メダルから発表した。かりんは手に汗を握った。ここでは名前を呼ばれたくはなかった。が、その心配も杞憂に終わった。銅メダルを受けたのは男子のペアであったからだ。
 つぎに銀メダル。かりんは目をつぶり、耳を澄ませる。すると、なんとここで呼ばれたのは朋美の組だった。それを聞いたかりんは一気に希望を高めた。神に祈る気持ちで手を合わせる。
 かりんは竜介を見つめた。竜介もかりんを見つめかえした。
「優勝は星野かりん・善野さゆりペア!」
 竜介が声高らかに告げた。
「やった――――!!」
 かりんとさゆりは飛びあがった。他の部員たちはそんな二人に拍手を送った。前に出ると、竜介はさゆり、そしてかりんの首に金メダルをかけた。
「おめでとう」
 竜介はまっすぐにかりんを見つめた。かりんはなんだか胸につかえていた嫌なものがなくなり、すっとする思いがした。

 合宿も実質的に終わり、部員は神戸に帰るだけだった。合宿最後の夜、竜介とかりんは民宿の庭のベンチに腰を並べ、久しぶりに恋人同士で向きあっていた。
「かりん、あのときはごめんな」
 と竜介が頭を下げたのは、合宿初日に口論をしたことだった。
「ううん、わたしこそごめんね、ひどいことをいって……」
 目を伏せ、かりんもすなおに謝った。
 その瞬間頭上の星がきらりと光り、二人のあいだにあったわだかまりも完全に消えた。












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