破の章 上の空のかりん
合宿自体は六日間、一日休みがはさまれて、実質的には五日間であった。練習場所は民宿から一キロほどにある市民体育館であり、部員はウォーミングアップをかねてそこまでランニングをした。練習は午前と午後、三時間ずつで、たしかにハードな面もあったが、演武の発表会や剛法の乱捕り大会といったイベントもあり、それだけに充実もしていた。
演武というのは二人か三人が一組となり、剛法と柔法の技を適当に組みあわせたものをいう。約束された動きで構成され、いかにスムーズに本物らしく見せるかがポイントだった。毎日その練習のための時間が取られ、この限られた日数内で演武を完成されることが各組に与えられた課題であった。
一年生にはまだそれだけの技量がなかったので、団体でひとつの演武を披露することになる。二年生であるかりんはさゆりとペアになり、最終日の発表会に向けて練習に励んだ。
だが、やはりしゃくにさわったのは朋美の存在だった。彼女も一年生ではあったが、有段者であるために、生意気にも団体演武には参加せずに、三年生の先輩の一人とペアを組むことになった。他の三年生は下級生を指導するので演武をすることはない。
竜介と口論をしてから、かりんはどうにも練習に集中することができなかった。全身に力が入らず、上の空で突きや蹴りをくりだすばかりだった。演武にしてもいっこうに内容を覚えられずにさゆりをいらいらさせた。
見ていてなんとも危なっかしかったのは、剛法乱捕りの練習である。
有田拳法の鍛錬法の特徴は、かぎりなく実戦を意識したことにあった。剛法にしても柔法にしても実際に使えてこそ意味があり、型の練習ばかりをくりかえしていてはいざというときには応用が利かなかったりする。それを避けるためにも、有田は剛法および柔法の乱捕りを重視した。
剛法に関していえば、顔面は――もちろん握り拳ではなく平手や掌手で――狙ってもいいし、少林寺拳法である以上、当然金玉も蹴っていい。もっとも、この場合狙うのは内股にほど近い位置である。有田拳法の乱捕りは空手でいえば、反則ありのフルコンタクト系といったところであろうか。それだけに危険でもあった。
ただしはじめからフルスピードで殴りあうわけではなく、まずはスローモーションで互いに突いたり蹴ったりし、じっくりと思考を働かせながら動きを体にしみこませていく。一年生は半年ほどこれを徹底的につづけ、そうしつつも目をスピードに慣らせていく。三年生にもなると目にも止まらぬ早さの応酬がくりひろげられ、その激しさは半端ではない。一瞬の集中力の欠如は大けがにもつながりかねない。案の定、かりんは腹部に前蹴りを決められ、その場にうずくまるはめになった。
「星野さん、ちょっと休けいしとき」
女子の副将のはいい、かりんを退場させた。
「ねえ、大丈夫?」
体育館の外で一人座っているかりんに声をかけたのはお母さん、福本であった。
「…………」
かりんは顔を上げることなく、地面の一点を見つめていた。アリが行列を作り、懸命になにかを運んでいたが、もちろんかりんの目にはそんなものは映っていない。
ふうと福本は軽いため息をつき、となりに腰を下ろした。 |