破の章 本当の原因
なにしろ二人は大声で派手にけんかをしたわけだから、二人のことはすぐに有田と福本の耳に入った。両先生は本人たちに話を聞く前に、他の部員たちよりある程度の情報を手に入れ、ことの状況を分析した。その結果はつぎのようなものであった。
まず、かりんの嫉妬の本当の原因を知っておく必要がある。これもやはり、彼女の幼少時代にまでさかのぼらなければならなかった。
彼女が二歳のときである。かりんにとって、衝撃的な出来事が起こった。妹が生まれたのだ。だが、二歳といえば、まだまだ親の全注目が欲しい年ごろである。三、四歳になってもそうなのだから、二歳はいうまでもないことであろう。かりんは突然あらわれた新しい赤ん坊にとまどい、強い嫉妬感を味わった。ひょっとすれば自分も赤ん坊のように振るまえば親の注目を受けられるのではないかと実際にそうしたものの、親に邪険にされるだけでなんの効果もなかった。
「あんたはもうお姉ちゃんなんやから」
と無理なこともいわれ、もっと甘えていたいのに早く大きくなるように要求されたりもした。
「ママ、ママ、わたしだけを見て! 前みたいにわたしだけを見て!」
幼いかりんは心のなかで叫んだのだが、その願いは聞き届けられず、彼女は寂しさを魂に焼きつけることになった。妹ばかりをかわいがる父親にも同じ思いをいだき、この満たされない気持ちをかかえたままかりんは大人になってしまった。
それが竜介との関係に投影されたのだ。
役割的に竜介はかりんの父親にあたり、突如出現した朋美は妹に重ねられた。だれでもある程度の嫉妬心はいだくものだが、こうした背景で育ったためにかりんのその気持ちは異常に激しく強いものだった。
かりんは竜介には自分だけを見てほしいと思い、朋美の存在を疎ましく感じた。朋美さえいなければと彼女に嫌がらせをし、竜介とけんかをしたときに自分の不満をぶつけたのは、じつは父への潜在的な怒りだったのだ。竜介はたんに代役を果たしたにすぎなかった。
もしかりんの気持ちが癒やされないままにいけば、彼女の行為はエスカレートし、彼女は竜介につきまとったり、竜介にも嫌がらせをするようになるかもしれない。かりんは世にいうストーカーになっていくであろう。
だが、不幸中の幸いは、彼女には両先生がいたことである。そこには救いと癒しの道があり、両先生は問題をなんとかしようと手を差しのべることにしたのだ。とはいえ、これには多少なりにかりん本人の努力もいることだろう。幼いころの心の傷が現在に再現されるのはそれを乗りこえるためであって、現に大人になったいま、かりんにはその準備が整ったといえよう。
だからことが起こったのだ。 |