破の章 激しい嫉妬 1
自分の視界にいないときに竜介が朋美と会っているのではないかという妄想にとらわれ、それを確かめるためにかりんは居ても立ってもいられないようになった。授業中に何度も竜介の携帯にメールを送り、返事が来るまでそれをつづけた。休み時間になれば彼のクラスまで急ぎ、彼が朋美と会っていないかどうか自分の目で確認せずにはいられなかった。
「おっ、なんや、かりん。わざわざおれに会いに来てくれたんか」
人の気持ちも知らないで、竜介はのんきにもそんなことをいうのだった。が、それだけで心はすっきりし、かりんはチャイムが鳴るまで彼との短いおしゃべりを楽しみ、それも済むと急いで教室に戻るというパターンだった。といっても、その安堵感も長くはつづかず、しばらくするとまたもとの疑心の塊になっているという具合だった。授業に集中することができず、小テストの点数もさんざんだった。
それよりも少林寺の練習だ。黒帯である朋美は一年生でありながらも他の部員を指導する側に立ち、生意気にもかりんの技を修正してきたりした。かりんは平静を装いつつも、必死にその屈辱に耐えるほかなかった。
気が変になるぐらいに許せなかったのは、竜介が朋美と二人だけで技について論じあっている光景であった。この技はこうしたほうがよくかかるのではないかと竜介がいえば、朋美は、いいえ、でもこの手はここに来たほうが少ない力で相手を転がせると思いますと答え、そこには二人だけの完全世界があり、かりんは自分だけが閉めだされた気分になった。
夜、家に帰ってからもかりんは道場での二人を思いだしては、胸をかきむしった。これは比喩ではなく、かりんは本当に指で胸のあたりを引っかいた。赤い血がにじみでるのだが、痛みも感じないほどにかりんは嫉妬に支配されていた。
時計は十時をまわったところだった。いつもであればバラエティー番組を観るか勉強をしているような時間であったが、この日はどうも気持ちを一か所に落ちつけることができなかった。
(先輩、どうしてるんやろ……)
ふと思った。ひょっとすると朋美とこっそり会っているのではないか――そんな疑念がそろりとかりんの心の内に入りこんできた。二人が楽しく会話をしている姿が思い浮かび、心拍数が急速に上がる。
と、想像が勝手に動きだした。朋美はまるで猫のように竜介にすりすりし、ゴロニャーンと鳴いた。竜介は朋美の肩を抱き、彼女の唇を吸った。竜介の手は朋美の体のあちこちを愛撫しはじめ、朋美はいやらしく股を開いていく。
「ああぁぁぁぁ!!」
かりんは発作的に携帯をつかみ、竜介にかけた。電源を切っているのか、電波の届かないところにいるのか、つながらない。メールを送る。十分待っても二十分待っても返事が来ない。いらいらしてきた。何度も電話をかけつづけるが、やはりつながらない。
(二人はわたしの知らないところで会ってるんや――)
そうにちがいない、とかりんは家を飛びだし、気がついたときには彼の家に向かって夜道を走っていた。すれちがう人がとっさに道をゆずったのは、かりんの形相があまりにも殺気だっていたからだ。目はかっと見開かれ、呼吸は荒く、八重歯はまるで鬼のそれであった。
竜介の家の前に来た。かりんは、はあはあと肩で息をした。二階の端にある彼の部屋を見上げる。電気が消えていた。
カーテンがわずかに揺れていた。寝ているのであろうか。いや、まだ十一時にもなっていない。夜更かしぐせのある竜介が寝ているはずもない。かりんは焦燥に駆られた。一階でテレビでも観ているのだろうか。また彼の携帯にかけてみる。家におれば出ないわけがなかった。が、彼は出ない。家にいないのか。こんな時間にいったいどこへ行くというのか。
この先の川かもしれないと思い、かりんはそこへ足を向けた。かりんが竜介とよく散歩する場所で、二人だけのお気に入りのベンチがそこにあった。竜介は勉強に疲れたときの息抜きに一人で訪れることがあり、いまもそこにいるのではないか――かりんは最後の頼みとばかりに足を速めた。
はたして竜介はいた。が、もっと近づくと、かりんはショックを受けることになった。彼が一人でなかったからだ。かりんは物陰に息をひそめ、ようすをうかがった。思ったとおりだ。朋美だった。
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