破の章 恋のライバル
ものごとに微妙な変化があらわれてきたのは新学期に入ったころだろうか。竜介が後輩の女子部員にわずかに興味を示すようになったのだ。今年入部してきたばかりの一年生であり、彼女は中学時代から少林寺拳法をやり、すでに黒帯で二段だった。
彼女の名前は黒田朋美といい、くせのかかった茶髪は肩の下まで伸びていた。愛くるしい顔立ちに発育のいい体というアンバランスさに男子部員は夢中になり、反対に女子は不快な気分になった。かりんにはステディーな恋人がいたことからはじめは傍観をしていたのだが、そういうわけにもいかなくなったのは、竜介も他の男子にならいだしたからだった。
「おれは技の指導をしてるだけや」
彼は弁解がましくいうのだが、二人は拳法をしているというよりも、どう見ても仲良くおしゃべりをしているようにしか思えなかった。かりんは道場の端からそれを眺め、複雑な気持ちを味わっていた。自分と竜介はセックスをするほどの間柄であるのだという心の余裕はあったが、それでもかりんは胸騒ぎをいだかずにはいられなかった。
当初は短かった竜介と朋美の会話も日を追うごとに長くなっていき、いつのころからかかりんは深い胸の痛みを感じるようになっていた。竜介が自分以外のだれかに目を向けていることがどうしても許せなくなっていたのだ。
「ねえ、彼女といつもなに話てんの?」
かりんは遠まわしに聞こうとするのだが、彼は真剣にはとりあってくれずに鼻で笑うばかりだった。竜介のそんな態度に傷つきながらも、かりんはそれ以上なにも聞けずにいた。
拳法部の部員たちは練習後に学校の自動販売機コーナーでジュースを飲みながらだべる習慣があったのだが、そこでも竜介と朋美は二人で楽しそうに話をしているのだった。信じられないことに、かりんもその場にいるにもかかわらずである。
「もうっ、先輩。早く帰るわよ」
あるときたまりかねたかりんはつかつかと寄っていって、強引に竜介の手を引いた。
「ああ、わかったから、ちょ、ちょっと待ってくれや」
といいながらも竜介は朋美との会話に戻り、熱中するあまりそのままかりんのことなど忘れてしまった。
「ふんっ、もう知らへんから」
かりんはぷいとすね、先に一人で帰った。
校門を出ても自転車には乗らず、かりんはハンドルを押してとぼとぼと歩いた。
「かりん」
と呼びとめられて振りむくと、さゆりが自分を追いかけていた。さゆりがはっとしたのは、かりんの目に涙がたまっていたからだ。悔し涙のようだった。
「さゆり」
とつぶやき、かりんはわぁーんと親友の胸を借りて泣きだした。放りだされて横倒しになった自転車のかごからかばんや道着が散乱し、それを見たさゆりはなんだか悲しい気持ちになった。
かりんの精神にわずかな狂いが生じてきたのは、このあとからである。朋美に対する激しい嫉妬と憎悪が彼女をそうさせたのだ。かりんは無意識ながらも異常な目つきで竜介をじっと見つめるようになり、その殺気を察知した竜介は背中にぞくぞくするものを感じ、思わず視線をそらせたりした。
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