破の章 初めてのエッチ
それは春休みのとある日のことであった。空が穏やかに晴れわたった、そんなのんびりとした一日だった。
少林寺拳法部も練習が休みであったが、竜介とかりんはほぼ毎日のようにデートをした。公園で会うこともあれば、弁当を持って自転車で遠乗りすることもあった。六甲山でハイキングをしたり、三宮まで出かけていって映画を観たりもした。春休みの宿題をするために互いの家へ行ったりもしたが、竜介がかりんを誘った問題の日――彼の両親はそろって出かけていた。
竜介ははじめからそういうつもりでかりんを呼んだのであり、かりんもあらかじめ親の不在を知らされていたので、当然彼女には断る権利はあった。が、かりんはそれを承知のうえで彼の家に上がったわけだから、二人のあいだには暗黙の了解があったことになる。
彼の部屋は男の子らしく、ロックバンドのポスターが張ってあったり、棚にはロボットのプラモデルが飾ってあったりした。勉強机には教科書や参考書が並び、壁には学校のブレザーと拳法の道着がかかっていた。
窓の外の木につばめが止まっていた。つばめはしきりにきょろきょろしていたかと思うと、そのままどこかへ飛び去っていった。竜介はレースのカーテンをさりげなく閉めると、ベッドのふちを背中にしているかりんのとなりに腰を下ろした。
二人はあれこれとおしゃべりをしたが、そうしながらも竜介はかりんの手を握り、タイミングを見計らっていた。竜介にとっては初体験であり、ちゃんとできるかどうかと彼は緊張の極致にあった。のどがかわき、息が不自然に上がっていた。やり方はそういう類のビデオや本で研究し、くりかえし想像と妄想のなかで練習をしてきたのでうまくする自信はあった。
ただわからなかったのは、女性器の形と構造だった。ビデオや本にしても肝心の部分がぼかされていたからだ。とはいえ、性行為というのは本能なわけだから、実際に彼女のそこを見ればどうするべきなのかわかるにちがいない。そう信じるほかなかった。
ふと沈黙が訪れた。二人がこれまでに経験したこともないタイプの静けさだった。その瞬間をとらえ、竜介はかりんに顔を寄せた。かりんはあうんの呼吸で目をつぶり、彼の唇を受けた。何度もしてきたキスではあったが、この日は格別に甘美だった。
彼の手がかりんの小さな胸に伸びてきた。ぎこちない手つきながらも彼はなんとかブラジャーのホックをはずすことができた。右手は乳首をもてあそび、そのままお腹のほうへと下りていった。温もりが下腹部に宿ったかと思うと、竜介の手はさらに下へ行き、かりんは自然と足を開いた。
かりんは茂みをまさぐられると、じわりと蜜があふれてくるのが自分でもわかった。竜介はかりんのパンティーを抜きとると、自分も服を脱いだ。かりんは彼の鍛えあげられた腕に抱きかかえられたかと思うと、ぽんとベッドの上に乗せられた。スカートとブラウスも脱がされると、かりんは生まれたままの姿となった。
カーテン越しに射す陽の光は明るく、ラブホテルとはまったく違う健全な空間に、かりんはなんとなく安心する気持ちがあった。と同時に、いつ家の者が帰ってくるともわからない状況にどきどき感もあった。
それ以上に興奮をしていたのは竜介だった。これまで空想のなかでしか見たことのなかった女性器が顔の前にあったからだ。ぼかしがかかっているわけでもなく、まるでそれ自身が生々しくうごめいているようでもあった。
いよいよがまんができずに、竜介はついに童貞を捨てる瞬間を迎えた。すばやくコンドームをつけ、竜介はかりんの秘密の園に割って入った。驚いたのはその熱さだった。全身を包みこまれているかのような錯覚をおぼえ、深い感動があった。竜介はすぐに体を動かすことなく、ただじっと彼女を抱きしめ、その感覚に浸った。
竜介にただ優しく抱きしめられているだけで、かりんはなぜか深い安堵感に溶けこんでいた。彼の鼓動が伝わり、そのわずかな振動にかりんの性器がうずいた。かりんはその静けさに漂い、彼の存在を全身で感じた。
「かりん」
彼が耳もとでささやきかけてきた。
「おれはおまえがほんまに好きや。おまえがほんまに好きやねん」
なんとも甘い声だった。
その刹那にかりんは理解した。彼は自分を抱いているのだ、と。“女”ではなく、かりん自身をかわいがって、大事にあつかうように抱いていたのである。それは援助交際で体験してきたどんなセックスとも違った。そう、まるで次元が異なっていた。テクニック面でいえば、彼など問題にならないほどに上手な男はいくらでもいた。荒々しい、炎がぱっと燃えあがるような激しいセックスを何度も体験してきた。にもかかわらず性技においてまったく未熟な竜介に、かりんはかつてないほどに深い喜びを味わっていた。
彼のセックスには愛があったのだ。ただ性欲を解消するためのセックスではなく、そこには魂と魂の交流があった。そう認識したとたんに、かりんのハートは開かれていくようであった。心の底から湧きあがってくる悲しみに似た気持ちがあり、その優しさのなかで竜介はゆっくりと腰を動かし、二人はほぼ同時にある高まりに達した。
「ああ、すごい」
かりんは彼を抱きしめ、エクスタシーのうねりに身を任せた。本当に大事にされていることを実感し、彼との一体感に漂った。 |