破の章 竜介の抱擁
かりんと竜介はゆっくりと時間をかけて愛を育んでいった。二人はとくに人目を気にすることなくいつもともにいたので、二人のつきあいはすぐにだれもが認めるところとなった。
朝は仲よく自転車を並べて登校し、昼休みは校庭の木陰で弁当を食べた。授業中はこっそり携帯メールでやりとりをし、放課後の練習のあとももちろんいっしょに帰り、二人は決まって公園でひとときを過ごした。
二人はちょうど磁石が引きあうように口づけを交わした。また、二人は公園の暗がりのなかでじっと動くなく、ただ静かに抱きしめあうこともあった。
とくに意識していたわけではなかったが、竜介の抱擁はかりんにとって深い癒しにつながっていた。幼少時にかりんは父親のスキンシップを受けることがなかった。皆無といってもよかった。その致命的なまでに不足していたスキンシップを、かりんは竜介に与えてもらうことができたのである。
竜介はたんにかりんの背中に手をまわし、彼女の頭を大切そうに包みこむだけだった。が、かりんは愛情という海にどっぷりとつかっている安心感を覚えた。かつて援助交際で味わったことのない類の安心感であった。
援助交際ではほとんど抱擁をすることもなく、ホテルに入ればすぐに服を脱ぎあってさっさとセックスをするだけだった。することをしてしまえば、またさっさと服を着てあとはさよならだ。
が、竜介は違った。なにをするわけでもなく、ただかりんを腕のなかでぐっと抱きしめるだけなのだが、かりんはそこに魂の底からのやすらぎを感じた。
二人がつぎの段階に入ったのは、こうした日々が数か月つづいたあとのことであった。もちろんこれも意図されたものではなく、すべては自然の展開にまかせられたにすぎない。 |