守の章 合掌の意味
さて、かりんに話を戻す。
少林寺拳法というものにふれるのはきょうがはじめてであったが、彼女はすっかり魅了されていた。迫力満点の剛法、華麗なる柔法、和気あいあいとした雰囲気、すてきな先輩たち、存在感あるお父さんに慈愛あふれるお母さん。練習が終わっても部員たちは残って熱心に技の研究をし、かりんは自分もその一部になりたいと強く思うようになっていた。
「かりん、ちょっとおいで」
と彼女の手を引っぱっていったのは、さゆりであった。かりんは軽くつまずきながらもついていった。
「お母さん、つぎ彼女をお願いします」
さゆりがいったのは、福本にマッサージをしてもらうことだった。
「じゃあ、ここに横になってちょうだい」
先生は床に敷かれたマットを指した。かりんはマットの上にうつぶせになった。
お母さんの両手がふわりと乗り、背中一面に温もりが広がった。かりんは体の力が抜けていくのがわかった。福本はかりんの肩から背骨に沿ってゆっくりと手を移動させ、力をこめたり緩めたりしながら筋肉をもんだりさすったりしていった。マッサージが進むにつれ、かりんのリラックス感も増していくようであった。福本は手の平を探知機のように動かし、気の滞りのある場所を探りあて、その緊張をほぐしていった。そうするうちに気のめぐりもよくなり、マッサージが終わるころにはかりんはすっかり汗をかくほどに体がほてっていた。
「どう、全身が軽くなったでしょ」
お母さんは首をわずかに傾け、かりんの目をのぞきこんだ。
「うん! めっちゃ軽なった感じ!」
かりんは腕をまわしながら目を輝かせた。全身にエネルギーが満ちるようだった。
少林寺拳法部では毎日の練習後にこうやって部員たちは互いにマッサージをしあった。希望者には二人の先生も手を当て、部員たちの体の痛みや疲れを取りのぞいてやった。
マッサージに入る前に先生はしばらく合掌をし、気の力を高めるのだったが、その同じ理由からこの部では合掌礼はわずかに長めだった。投げ捨てるような適当な合掌ではなく、部員たちは顔の前できちんと指と指、掌と掌を合わせた。薄目になり、深呼吸をする。気をため、充実したところでぱっと構えに入る。
宗道臣はすべてに意味をこめ、合掌とて伊達ではないのだ。形のみをくりかえしていてはいつまでも真髄に到達することはないが、それぞれの意味をしっかりと押さえておけば、かたちなどはあとから勝手についてくるのだ。 |