守の章 部活見学 2
「では、これより本日の練習を開始します」
北沢が大きな声でいうと、部員の一人が、礼、と号令した。
「よろしくお願いします!」
全員顔の前で合掌し、唱和した。見ているだけで、かりんの気持ちも引きしまるようであった。
このあと部員たちはあぐらを組み、お腹の前で両手を握りあわせた。目はつぶり、ちょうど座禅をする格好となった。
「はい、息を大きく吸って、止めて、ゆっくりと吐きだしてください。大きく、ゆっくり。大きく、ゆっくり。そして気持ちを鎮めてください」
といったのは北沢ではなく、副将の千春だった。その優しい声の感じに、かりんまでが無意識のうちに深呼吸をしていた。
この座禅も済むと準備体操と柔軟があり、かりんがあまりにもの迫力に目を見張ったのはそのあとだった。部員たちは北沢の号令にしたがって拳を力強く突いたり、足を天高く蹴りあげたりした。そのたびに腹の底からしぼりだされる、えいっ、という気合いが道場の天井や壁に反響し、かりんの鼓膜をついた。
かりんはすっかり魅了されていた。全員が呼吸を合わせて突き蹴りをする光景にはみごとな一体感があり、美しさがあった。だが、だれよりもいちばん格好がよかったのはやはり北沢であり、かりんはこの時点ですでにこの先輩に恋心に近いものを感じていた。これまではたんなるあこがれにすぎなかったのが、もう一歩深まった心境とでもいうべきか。
「では、相対になって」
北沢の指示に部員たちは向かいあって、二人でひと組ずつになった。
「きょうは内受け突きの練習から入ります」
と北沢がいうと、もう一人背の高い男子部員が出てきて北沢の前に立った。その腕章には千春先輩と同じく<副将>とあった。あとで聞くと、香取という三年生だった。千春は女子をまとめる副将であるのに対して、香取は男子担当だった。
香取が北沢に右拳で殴りかかると、北沢は左腕でそれを受け、逆の突きで反撃をした。じつになめらかで、動きに一分のすきもなかった。
つぎに北沢の解説が入る。
初心者には攻撃を受けてから反撃をするまでにワンテンポの開きがあるが、技術を深めるにしたがって攻撃と反撃の時間差は縮まり、上級者になると、相手の攻撃とこちらの反撃はほぼ同時になる。つまりカウンターパンチである。
さらに修行が進むと、相手が実際に突く前、肩がわずかに動いただけで相手を制せられるようになってくる。それ以上の名人クラスになると、相手の攻撃の気を察することによってそれを封じられるようになる。最後は神の領域であり、その人の前に立つと攻撃をしたいという気持ちさえ失せてしまい、存在するのは彼と我の一体感であり、平和的空気である。気がつくと互いに肩をたたきあい、笑いあっているような状況である。
とはいえ、部員たちは神の領域に達しているわけでもなかったが、この道場にはいたって平和的で友好的な空気が漂っていた。
主将の説明のあと部員たちは実際の練習に入ったが、真剣さのなかにもじつに和やかな雰囲気があった。かりんはたんに見学のつもりで来ただけであったが、心はすでに入部することを決意しつつあった。 |