守の章 部活見学 1
その放課後――。
かりんはさゆりについて武道場へ向かった。武道場は体育館に隣接しており、少林寺拳法部のほかに柔道部や空手部が使用した。二面ある練習スペースの片方には畳が敷きつめられ、もう片面は板敷きだった。少林寺拳法部は板敷きのほうを使うようだった。となりでは空手部が練習を開始したところだった。
「よろしくお願いします」
武道場の入り口でさゆりは合掌礼をし、大きな声であいさつをした。はじめて見るような光景に、かりんは親友に奇異の目を向けた。たったそれだけでもさゆりのべつな一面を見た気がした。
道場ではすでに何人かの部員たちが準備体操をしていた。それぞれ屈伸をしたり、柔軟をしたりしていたが、かりんの存在に気がつくと、すばやく寄ってくる一人の部員がいた。
「こんにちは、見学に来てくれたの?」
背がすらりとした女子部員だった。道着がなんとも似合っており、その袖には<副将>という腕章がついていた。
「後藤千春先輩よ」
耳もとでさゆりがいい、かりんはよろしくお願いしますと頭をぺこりと下げた。さゆりはそのまま更衣室へ消え、その間かりんは千春先輩にいろいろと話を聞くことになった。
少林寺拳法は力のない女性や子供にでもでき、原理を正しく理解すれば、小さな者でも大漢を倒せるということだった。剛法は蹴ったり突いたりするのに対して、柔法はおもに関節を攻める技から成りたっていた。基本的には護身術であり、けんかに使うことは固く禁じられていた。人に勝つよりも自分に克ち、自信と勇気に裏打ちされた行動力を身につけることが主眼にあった。他人を思いやる心を育て、世のなかに役立つ人間をつくっていくことが少林寺拳法の存在意義であるようであった。
かりんが思わず顔を上げたのは、目の前を北沢が通っていったからだ。青いかばんを肩にかけ、なんとも涼しい顔で口笛を吹いていた。
北沢は長身で筋肉質で、いかにもスポーツマンというタイプだった。だらしなく服を崩して着こなしていたが、それがさまになっていたのは北沢が飛びぬけての男前であったからであろう。不良っぽさのなかにも、好感の持てるさわやかさがあった。
気がつくとかりんの瞳はハート型に輝いていた。それを見た他の女子部員たちはくすくすと笑い、はっとしたかりんはほおを赤らめた。
だが、このすぐあと、その赤らみもいよいよ増すことになった。道着に着がえた北沢本人がかりんのところに来たからだ。
「主将の北沢です」
彼はいい、道場の端に座っているかりんのとなりにしゃがんだ。
かりんの動悸が早まった。北沢の切れ長の目に見つめられるだけで、どうにも緊張感が高まる一方だった。彼の役者のような口もとがかりんになにかを語りかけていたが、かりんはどきどきしてまるで話に集中できなかった。
「まあ、きょうはゆっくり楽しんでいってくれ」
立ちあがりながら北沢はいい、そのまま去っていった。かりんはほっとしつつも、彼にもっとそばにいてほしかったという相反する気持ちのなかにいた。
「はいっ、集合!」
その北沢が正面に出て道場内に響きわたるような声で号令をした。部員たちは縦横に等間隔に整列した。ざっとその人数を数えてみると、七十人ほどはいるだろうか。男女の比率としては、男子よりも女子部員のほうが多い感じだった。となりの空手部がほぼ男子一色であるのとは大違いだった。それだけに少林寺拳法部には華があった。 |